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アイリスとの通信を終えると、ソウマは、深く深くため息をついた。
「全く困ったものだな。
理のある釈明の上で、非を認められると、こちらも強くはでれない。
それを知っている。わがままで、賢明だ。
その上、こちらに宿題まで出してきた」
「愉しそうですね」
声の色から、ソラはそう察した。
そして、それは事実であった。
「ああ、もちろんだよ。
奇跡的に出会い、なにごともなく終わる。
それでは、あまりに、あっけない。
きっと、後悔していただろう」
「多くの困難が待ち受けるでしょう」
「解っているさ。きっと、お互いに。
その上で、口実をくれたのだ、無碍にすることはない。
ソラはどう考える?」
「どうとは?」
「どうすればいいと考える?」
「お気持ちは、決まっているのはないですか?」
「そうだな。仕向けられた感は否めないが、だからと言って、踊らない理由にはならない」
「確認:クノスの救出計画を策定しますか?」
「いや、そうはしない」
「わかりました」
ソラは、一言で察し、支度を始める。
幾つかの機能を限定解除し、自己診断を実行する。
眠っていた船が、静かに、目覚め始める。
「ここまでするのであれば、意識的なものだろう。
つまり、その気があるということだ。
それなら、期待以上の結果で応えることにしよう。
探り合いを続けても遠回りするだけだ」
「確認:事後はどのように?」
「帝国の意思を尊重するよ。こちらの意向をはっきりと提案した上で」
「確認:ティアスをどうされますか?」
「アイリスとの話では、第二艦隊に引き渡すことになっていたな。
だが、そうはしない。
帝国との橋渡し役として、手元に置いておく。
相互の情報交換も期待できる」
「わかりました。部屋に軟禁しておきます」
「いや、艦橋に呼んで、隣にいてもらう。
この期に及んで、それは可哀想だろう」
「異論はありませんが」
ソラは、語尾に異論を匂わせたが、言葉を続けることはなかった。
「懸念すべきことはあるか?」
「特に、ありません。
木星圏に帝国の第二艦隊を残していくことになりますが、
対応可能です」
「決まりだな」
「確認:行動開始時刻を指定してください」
「支度ができ次第」
「できています」
ソラは、情報窓を展開する。
太陽系から銀河系へと、宙域図は表示範囲を拡大し、帝都と称される帝国の巨大都市船が航行している座標を指し示す。
その情報は、クノスやティアスから得たものではない。
帝国が地球の存在を認識する遥か以前に、既に、ソラは帝国を監視していた。
宙域図に、地球圏からの予定航路が表示される。
それは、人類には成し得ぬ遥かな旅路である。
「では、国交交渉に赴こうか」
ソウマは高らかと告げる。
そこに、憂いはない。
ただ、未来への希望に、胸を躍らせていた。




