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「お久しぶりです。また、こうして言葉を交わすことができて嬉しく思います」
「こちらもだ」
回線が繋がり、双方の声と姿が共有される。
帝国側の映像を伝える情報窓に姿を現したのは、アイリスであった。
「まずは、謝罪をしたい。
帝国の一部勢力が地球への攻撃を画策し、太陽系に侵入。
工作を行っていた。
さらに、それを諌めるべく派遣した部隊が、所属不明機と遭遇。
戦闘が発生したとのことだが、貴公の手のものであろうな?」
「はい、私です」
「そうか、では、手を擾わせたことを含め、謝罪をしたい」
アイリスは、瞳を伏せ、反省の意を示す。
「双方に被害もなく、大事には至りませんでした。
帝国が自主的に制裁に動いていたのであれば、それを汲むべきでしょう。
戦闘も偶発的なものです。
あくまで内政の問題ということで、これらを外交交渉の材料にすることはしません」
甘すぎるのではないか、つけ込むべきではないか、そんなソラの声が聞こえそうであったが、ソウマに迷いはない。
帝国に要求すべきものもない。
「感謝する」
「ただ、先の通信要請に応じて頂けていれば、より円滑な対応ができたと考えます。
その点については、少し残念です」
「そうだな。
だが、帝国と地球は、そ交わりを一時のものとし、互いの道を歩むと決めた間柄だ。
控えるべきであろうと考えたのだ」
「わかりました」
「貴公の寛大さに感謝と尊敬を。
とはいえ、けじめもある。
木星圏に駐留している第二艦隊は、早期に太陽系から離脱させることになった。
地球への攻撃を画策実行した者共については、帝国の法に則り、厳正に処断される」
「わかりました」
帝国の内政に口を出すべきではない。
そも、地球を更地にしようとした者に同情までする義理はない。
釈然としてはいないが、一方で、異論まではない。
そのため、ソウマは、ただ、応じた。
「それと、言いにくいことだが、伝えておくべきだろうな。
主犯の一人として、地球に派遣された審判官が捕縛されている」
告げられた言葉は、ソウマの冷静さを、一瞬で打ち砕いた。
正に、不意討ちであった。
「どういうことでしょうか?」
「計画の中枢にあり、様々な情報を流していたとのことだ。証拠も少なくない」
「信じられません。クノスさんは、帝国と地球の友好を望んでいました。話をすることはできませんか?」
ソウマの言葉に、アイリスは首を振り、それが困難であることを示す。
「どうにかしたいところではあるがな。状況が悪すぎる。
常であれば、このようなことはないのだがな。
帝国の内政は混沌としている」
「すぐに処刑されるようなことは」
「それはない。だが、軍事法廷で裁かれることは免れないだろう」
「わかりました」
ソウマは、表情を乱すことも、声を荒げることもなく、ただ、静かに頷いた。
三度目となる、同じ言葉を使い、応えた。
一度目は、理解を。
二度目は、諦観を。
それぞれ、示すものであった。
そして、三度目のそれは、肯定を否定するためものであった。




