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「あまり、ティアスをいじめないように」
「意向を汲んで、かなり配慮をしたつもりです」
「答えに窮する質問はあったか?」
「特には、クノスに与えていた以上の情報を開示する必要には、迫られませんでした」
「友好を望む意志に変わりはない。それだけでも帝国に伝わればいいのだが」
「それには、まず、お帰りを願わなければなりません」
「ティアスが、潜入工作員であれば、良かったのだがな」
「教育を受けているのでしょう。一定の素養はあるようです。ただ、手に入れた情報を送信する手段を持ち得ません」
「貸してやりたいところだがな」
「貸してはいます」
「あの携帯端末か」
「情報の送信が可能であることに気づけば、使われるやもしれません」
「どこまで信頼されているか、それ次第だな」
ティアスは、馬鹿ではない。
盗聴を警戒しない筈がない。
それが枷になる。
何故、渡されたか。
その思惑を察した上で、行動する勇気が必要になってくる。
「それで、話して、どう感じた?」
「帝国では、公開されていない我々の存在について、一定の情報を持っていたことなどから、
ティアスは、帝国の上層にいる人物の私兵に近い立場にあったと推測されます。
一方で、全てを識らされた上で、賛同し行動しているわけではなく、
我々と対話したことで、抱えていた疑念を強くしているようでした」
「そこに付け入りたいものだが」
「帝国に反抗する意思は感じられませんでした」
「わかっているさ。それで、帝国の意向はどう考える?」
「帝国は、或いは、帝国の指導者は、敢えて、緊張した関係を望んでいるように感じられます」
「友好を語りながらも、交流から逃避し、一方で、その威を示さんとしている。何がしたい?」
「前例のない状況に、帝国は混乱し、その統制に支障をきたしている。そう考えれば、わかりやすくはあります」
「なくはないだろう。
我々は、帝国の内政について、多くの情報を持っているわけではない。
皇帝の治世は安定しているとのことだが、それを確かめたわけではない。
事実であっても、地球と我々との外交方針を巡り、大きな亀裂が生じていても、おかしくはない。
だが、そうではない気がしている」
「根拠はありますか?」
「もちろん、ないさ」
「支離滅裂なわけではなく、帝国の行動は一貫している。そう仮定するのであれば」
「何がそうさせる?」
「おそれ」
恐れ、畏れ、虞。
ソラは、漠然とした概念を言葉にした。
それは、帝国の在り方を示すに、最も適当な言葉であった。
「報告:帝国から通信の応答要請がありました」
「これは、面白いタイミングだな」
断る理由はない。
ソウマは、静かに頷くと、ソラに、応じるように促した。




