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「仲間はいるのですか?」
「仲間の定義が不明ですが、志を同じくし、行動を共にする者という意味においては、我々に仲間は存在しません」
「貴方を創った者は、仲間とはいえないのでしょうか?」
「否定。創造者と意思の共有をしてはいません」
「創造者の命令は、管理者の命令より優先されるのでしょうか?」
「そも、創造者の命令に従わなければならないという論理が存在しません」
「遺蹟船は、貴方の他にも存在するのでしょうか?」
「不明です」
「創造者は、どこで何をしているのでしょうか?」
「不明です」
「貴方がたが、我々と定義するそれは、独立し完結したものであり、
その意思や行動に介入する内的要因は存在しないという理解でよろしいでしょうか?」
「肯定。我々は、我々の意志によってのみ拘束されます」
ティアスは、頷き、姿勢を正した。
あらためて、向き合わなければならない。
その思いを強くした。
報告書を目にした時は、半信半疑であった。
報告者がクノスであるとしても、にわかには、信じがたい話であった。
帝国と対峙しているのは、文明ではなく、国ではなく、そも、組織ですらなく、一人の個である。
信じられる筈がない。
だが、ソラの回答は、それ以外の事実は存在しないと、あらためて、突きつけるものだった。
認めなければ、先には進めない。
そう告げていた。
「管理者の目的は、なんですか?」
「地球人類文明の平和的存続であると認識しています」
「帝国との遭遇をどのように考えていますか?」
「稀有な事象であり、肯定的に捉えていると認識しています」
「帝国との交渉に地球人類の意向が反映されることはありますか?」
「否定。地球人類は帝国の存在を知り得ません」
「地球人類に帝国の存在を伝えないのは何故ですか?」
「そも、地球人類は、その真偽を確かめることさえできないため徒労です」
「帝国との関係をどうしたいと考えていますか?」
「一貫して帝国の判断に委ねています」
「では、要望はないのですか?」
「管理者は、帝国が太陽系に留まることが望ましいと考えているようです」
「それを帝国に要求するもつもりはないのですか?」
「双方に有益な未来をもたらす確証がなく、強いることは望ましくないと考えているようです」
「それは責任を負いたくないだけではないでしょうか?」
「そも、帝国に、その気がないようでしたが?」
ソラは、ティアスの挑発を一蹴する。
全てを見透かすような瞳に、ティアスは、気色を失うしかない。
「帝国を脅威と認識していますか?」
ソラは、少し考えた上で、端的に答えた。
「限定的肯定。現状では脅威ではありません。しかし、未来においては、その限りではありません」
ソラの言葉は、ティアスの背筋を冷たく撫ぜた。
それは、帝国のあり方に対する一つの意趣返しであった。
「ですが、そうであったとしても、出会いを悔いるような未来を管理者は選択しない」
ソラは、そう言葉を接いだ。
声が響き、瞬間、ティアスは、落ちた。
透明な足場は消失し、果てのない宇宙に、その身は投げ出されていた。
落ちていく。
錯覚なのか、或いは、現実なのか、判然としない。
微睡みの中に、身体も、意識も、落ちていく。
ただ、ティアスは、遠ざかっていく、ソラの瞳を、ただ視ていた。




