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夜明けのソラの契承者 悠久漂流帝国  作者: やたか なつき
三章「侵略者」
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14

 ティアスは、一瞬、船の外へと投げ出されたかのような錯覚に、眩暈を覚えた。

入ってきた扉は、既にない。

それどころか、部屋を部屋たらしめる壁や天井もなく、この空間がどのような形状をしているのかも判然としない。

視界には、ただ、宇宙があった。

 ティアスは、冷静に周囲を見回し、自身の状況を確かめる。

そこにあると認識できるのは、足元の透明なタイルだけであり、それが唯一の拠り所として、上下を規定していた。

仮に、踏み外そうとも、そこには床がある。

その筈である。

だが、踏み出すことを躊躇わせるほどに、その光景は現実的であった。

 機動装甲の操縦席から、全視界モニターで宇宙を視ている時に、似てはいた。

だが、似て非なるものである。

それは生身であることだ。

母星を持たない宇宙の民であっても、生身に近い装備で船外に出ることには、抵抗があった。

説明しがたい、いや、説明するまでもない原初の恐怖。

それを克服しているわけではない。

そのための機動装甲でもある。

 一面に宇宙を写した、その空間は、どうしようもなく美しく、そして、どうしようもなく恐ろしかった。

「ようこそ、とは言いません。貴方は、招かれざる客ですので」

 ティアスは、はっとし、声に振り返る。

そこには、人形の如き少女が立っていた。

長い暗い銀色の髪。

射抜くような金色の瞳。

黄金比を連想させる相貌。

細く長い手足。

一分の隙もない姿勢。

何もかもが、整いすぎていた。

否定しがたい美しさがそこにはあった。

だが、その完全さは、どこか人工的であり、それ故に、歪さを感じさせた。

「あの、私は――」

「ティアス、存じております。私は、ソラ。

貴方のお相手をするように仰せつかりました。

不本意ではありますが」

 ソラは、ティアスの言葉を遮るように告げた。

「あっ、はい」

 ソラは、それなりに失礼ではあったが、一方で、いやらしさはなく、ただ、事務的であるように感じられた。

そも、ソラに感情があるのか、ティアスは掴めていない。

ティアスを支配していたいのは、不快ではなく、困惑であった。

中身のない返事しかできなかったのは、ただ、状況を掴めずにいたからである。

「では、ご質問をどうぞ」

「えっ、はい?」

「ご質問があれば、回答をさせて頂きます。

ないようでしたら――」

「待ってください。あります。

あの、まず、ソラ、貴方は何者ですか?」

「ソラは、この船の生体端末です。

管理者を補佐することを、その存在意義として機能しています」

「貴方の管理者とは、ソウマのことですね?」

「肯定。ソウマは、ソラの管理者として規定される唯一の存在です」

 醒めていく。冴えていく。

ティアスは、何を質すべきか、取捨選択を繰り返し、言葉を探し、編み上げていく。

先程まで、心身を竦ませていた恐れは、既に失われていた。

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