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夜明けのソラの契承者 悠久漂流帝国  作者: やたか なつき
三章「侵略者」
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13

 ティアスは、船内の廊下で、やや途方に暮れていた。

保証された自由を行使した結果、迷宮の如き船内を一人彷徨っている。

 迷ってはいない。

地図の表示やナビゲーション機能が利用できる携帯端末を渡されており、

現在位置も、提供された客室への帰り道も解っている。

いざという時には、ソウマに直接連絡も可能である。

そのため、不安はない。

一方で、徒労感には、苛まれていた。

目的地がなく、また、探索をはじめてから一時間弱が経過しているにも関わらず、何も見つけられていない。

 客室の外に出ることは、制限されていない。

ただ、それは、船内の全ての場所に、立ち入れることを意味してはない。

扉があっても施錠されており、室内に入ることはできず、結果として、代わり映えのない白い廊下をひたすら歩き続けている。

「地球の娯楽に興じていたほうが、有意義だったかもしれませんね」

 客室での時間が退屈だったわけではない。

ティアスには、情報端末の利用権限が貸与され、地球上の情報ネットワークにアクセスすることができた。

報道、芸術、娯楽。

未知の刺激的な情報がそこにはあり、それに溺れていれば、時間を忘れることができただろう。

 そうしなかったのは、帝国の武官としての矜持があったからである。

厚く遇されていても、捕虜であるということをティアスは自覚していた。

状況によっては、交渉の材料にされる負の存在である。

そんな立場にいる自身を軽蔑していた。

 それ故に、やらざるを得なかったとも言える。

使命感や忠誠心だけではなく、自身の興味もあった。

とかく、何に突き動かされたにせよ、何も成し遂げられてはいないのが現実であった。

「有益な情報が得られれば立つ瀬もあったのですが」

 ため息混じりに、ティアスはつぶやくが、一方で、悲壮感はない。

そう都合よくいかないことは解っていた。

ただ、できることがあるのに、何もしないでいられるほど、強くなかった。

それだけの話しである。

 ティアスは、携帯端末を操作し、船内図を呼び出すと、適当な場所にポイントを置き目標地点として設定した。

特に理由があったわけではない。

強いて言うなら、なんとなく、特徴的な構造をしているように感じられた。

 食事の時間も近い。

何もなければ、客室に戻ろう。

そう考えながら、ティアスは廊下を歩いた。

次こそは、という期待もなくはなかった。

だが、それも打ち砕かれる。

間もなく、扉の前へと辿り着いた、ティアスは深くため息をついた。

例によって、扉があり、そして、それは閉ざされていた。

 流石に限界であった。

ティアスは、扉を睨みつけ、そして、もたれかかるようにして、額を扉にこつんと打ちつけた。

心境としては、蹴り飛ばしてやりたかったが、

淑女は扉を蹴ったりしないという、高潔な自意識がそれを留まらせた。

「えっ?」

 預けていた身体を起こし、踵を返さんとした瞬間であった。

突然、扉が開いた。

ティアスは、慌てて体勢を立て直そうとするが叶わない。

前のめりに室内に転がり込む。

「全く、一体、何なのですか?」

 あてどのない文句を言いながら、ティアスは、顔を上げ、そして、言葉を失った。

そこには、一面の星空があり、そして、人形の如き少女がいた。

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