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ティアスは、船内の廊下で、やや途方に暮れていた。
保証された自由を行使した結果、迷宮の如き船内を一人彷徨っている。
迷ってはいない。
地図の表示やナビゲーション機能が利用できる携帯端末を渡されており、
現在位置も、提供された客室への帰り道も解っている。
いざという時には、ソウマに直接連絡も可能である。
そのため、不安はない。
一方で、徒労感には、苛まれていた。
目的地がなく、また、探索をはじめてから一時間弱が経過しているにも関わらず、何も見つけられていない。
客室の外に出ることは、制限されていない。
ただ、それは、船内の全ての場所に、立ち入れることを意味してはない。
扉があっても施錠されており、室内に入ることはできず、結果として、代わり映えのない白い廊下をひたすら歩き続けている。
「地球の娯楽に興じていたほうが、有意義だったかもしれませんね」
客室での時間が退屈だったわけではない。
ティアスには、情報端末の利用権限が貸与され、地球上の情報ネットワークにアクセスすることができた。
報道、芸術、娯楽。
未知の刺激的な情報がそこにはあり、それに溺れていれば、時間を忘れることができただろう。
そうしなかったのは、帝国の武官としての矜持があったからである。
厚く遇されていても、捕虜であるということをティアスは自覚していた。
状況によっては、交渉の材料にされる負の存在である。
そんな立場にいる自身を軽蔑していた。
それ故に、やらざるを得なかったとも言える。
使命感や忠誠心だけではなく、自身の興味もあった。
とかく、何に突き動かされたにせよ、何も成し遂げられてはいないのが現実であった。
「有益な情報が得られれば立つ瀬もあったのですが」
ため息混じりに、ティアスはつぶやくが、一方で、悲壮感はない。
そう都合よくいかないことは解っていた。
ただ、できることがあるのに、何もしないでいられるほど、強くなかった。
それだけの話しである。
ティアスは、携帯端末を操作し、船内図を呼び出すと、適当な場所にポイントを置き目標地点として設定した。
特に理由があったわけではない。
強いて言うなら、なんとなく、特徴的な構造をしているように感じられた。
食事の時間も近い。
何もなければ、客室に戻ろう。
そう考えながら、ティアスは廊下を歩いた。
次こそは、という期待もなくはなかった。
だが、それも打ち砕かれる。
間もなく、扉の前へと辿り着いた、ティアスは深くため息をついた。
例によって、扉があり、そして、それは閉ざされていた。
流石に限界であった。
ティアスは、扉を睨みつけ、そして、もたれかかるようにして、額を扉にこつんと打ちつけた。
心境としては、蹴り飛ばしてやりたかったが、
淑女は扉を蹴ったりしないという、高潔な自意識がそれを留まらせた。
「えっ?」
預けていた身体を起こし、踵を返さんとした瞬間であった。
突然、扉が開いた。
ティアスは、慌てて体勢を立て直そうとするが叶わない。
前のめりに室内に転がり込む。
「全く、一体、何なのですか?」
あてどのない文句を言いながら、ティアスは、顔を上げ、そして、言葉を失った。
そこには、一面の星空があり、そして、人形の如き少女がいた。




