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夜明けのソラの契承者 悠久漂流帝国  作者: やたか なつき
三章「侵略者」
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12

「ご苦労であった。で、どうだった?」

 展望室に現れたクノスに、アイリスは明るく労いの言葉をかける。

声は、明るい。

「報告の通りです。全く相手になりませんでした」

「朗報だな。白兵戦、航宙戦でも話にならずか、これは次も楽しみだ」

「お叱りにはなられないのですか?」

「先んじて工作部隊を制圧した上で退避させ、その上で、現れるであろうソウマを待ち伏せし、襲撃せよ。

余の命を忠実に遂行したではないか?」

「いえ、それは滞りなく」

「なれば、何を憤ることがあろうか?」

 アイリスは、クノスを慮って言っているわけではない。

ただ、純粋に、現在の状況を評価していた。

「あの場に卿らがいたのは、余の命に逆らい、地球を攻撃せんと企んだ逆臣を討つため。

双方の武力衝突は偶発的な事故に過ぎない。

と、理論武装した上で、ソウマの力を測ることができた」

「部下を置き去りにし、逃げ帰ってきました」

「それだけを聞けば、確かに体面がよいとは言えんな。

だが、此度は相手が悪いと知った上で、余が命じたことだ。

それを糾弾するなど、愚かなことだ。

卿も問題があるとは考えてないのであろう?」

「失礼を致しました」

 クノスの正直な応えに、アイリスは苦く笑う。

太平の世の統治者に対する評価など、たかが知れていると実感する。

「ソウマは、ティアスをどう扱うと考える?」

「捕虜として、正当に扱うでしょう」

「であろう? ならば、より都合が良い」

 クノスは、アイリスの真意を知らされ、付き従っているわけではない。

手足となり働くか、或いは、ことが終わるまで拘束されているか。

そう迫られ、クノスは前者を選択した。

帝国と地球の行く末を占う歴史の分水嶺。

その最前線に身を置いていたいという気持ちが強くあった。

一方で、正しいことをしているという自信はない。

「帝国の未来のために」というアイリスの言葉が拠り所ではある。

だが、アイリスが描く帝国の未来が、如何なるものか、クノスには視えていなかった。

「さて、そろそろ時間だな」

 アイリスの視線の先に、空間投影窓が展開され、映像と音声が流れ始める。

「太陽系外縁に派遣されていた軍の武官一名が任務中に行方不明になっているとの情報です。

軍は、事実を認め、事故として調査を進めているとの回答を行いましたが、

士官の氏名や任務の詳細などは、機密であるとして公開を拒んでいます」

「これは、なんですか?」

「報道番組だが?」

「問題にしているのは放送の内容です。意図的に情報を流したのですか?」

 帝国は、報道の自由を弾圧してはいない。

これまでにも、帝国の中枢にある組織や官僚の不正を暴き、糾弾している。

だが、それにしても、早すぎた。

「察しが良いな。情報公開というやつだ」

「事実であれば、崇高ですが」

「嘘はなかろう?」

「何が狙いですか?」

「プロパガンダだ。

と言うと、身も蓋もないな。

余は帝国が直面している状況を、広く伝える必要があると考えている。

その上で、考えさせたいのだ。

いや、理解させたいのだ。

これは、その一歩というわけだ」

「確かに、地球の存在を広く伝え、世論に問いかけることは理想でしょう。

ですが、一方で、大きな混乱が起きることは明らかです。

内紛に繋がる恐れさえあります」

「ほう、卿は理想のために行動する一方で、

現実を無視してはいない。好ましい姿勢だ」

「お褒めに預かり光栄です。しかし――」

「そう、不安な顔をするな。状況は悪くないどころか、良好だ」

「想定外の事象に、成り行きで対応をしているだけのように、思えるのですが」

「想定外はつきものだ。全ての主因たる必要はない。重要なことは、どう向き合い、どう導くかだ」

 アイリスの暗い微笑みに、クノスは言葉を失う。

「余は成してみせる。余が望む未来を」

 アイリスは、全てを収めんとするかのように、両の手を広げる。

そこに小さな少女の面影はない。

帝国を統べる皇帝がそこにはいた。

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