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夜明けのソラの契承者 悠久漂流帝国  作者: やたか なつき
三章「侵略者」
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 まず、クノスの人となりについて、話が及ぶのは自然な流れであった。

共通する知己であり、互いに興味もあった。

機密に抵触する恐れも少なく、踏み込む前の緩衝材としては適当であった。

「クノス様は、士官学校時代から、周りから抜きん出た存在でした」

「昔から、お知り合いだったのですか?」

「当時は、数回話したことがある程度です」

 ティアスが語るクノスは、正に理想の帝国士官の姿を体現したものであった。

勇敢であり、賢明であり、公正である。

その人物像は、ソウマが抱いているものとは、やや異なるものであった。

だが、それを否定するするつもりはない。

人の表情とは、多面的なものであると理解していた。

ソウマは、クノスの横顔を連想しながら、ティアスの言葉に耳を傾ける。

 帝国で尊敬される立場にあり、一定の人望を集めている。

誇張があるにせよ、概ね事実であることをティアスの言葉は伝えていた。

それは、ソウマにとっても、好ましいことであった。

「クノスさんとも、戦ったことはありますが、貴方の操縦も負けてはいませんよ。

あの状況での反撃などは、余人には成し得ないものです」

「身体が動いていただけです。結果も伴っていません」

「ええ、二人で紅茶を飲んでいられるのも、そのおかげというわけです」

 ソウマが、おどけてみせる。

そこで、ティアスは、初めて、そして、確かに、笑った。

そして、それに気づくと、自身をたしなめるように、こほんと咳払いをした。

「これは、紅茶と言うのですか?」

「はい、クノスさんも、気に入っていたので、お口に合うのではないかと考えたのですが」

「ええ、我々が普段口にしているものと似ていて、飲みやすいです」

 ティアスの薄い唇がカップに触れ、喉が小さく揺れる。

ほっとため息をつく、その姿は、美しく麗しい。

戦闘兵器の操縦者と言われても、信じるものはいないだろう。

「このようなことになるとは、考えてもいませんでした」

「私の存在を知る帝国の方々は、皆そう思っているのではないでしょうか?」

「そうかもしれませんね」

「ですが、私は、帝国との邂逅を不幸だとは考えていませんし、不幸に導くつもりもありません。

うまくやってみせますよ。ティアスさんのことも含めて」 

 ティアスは、はっとし、顔を上げ、ソウマの表情を覗く。

二人の視線が重なる。

「ティアスさん、貴方は、どうすべきだと考えますか?」

「私は、それを答える立場にはありません」

「意地の悪い質問でしたね。忘れて下さい」

 ソウマは、そっと視線を外す。

白いティーカップの中で揺れる紅茶には、自身の顔が映っていた。

中々に、醜悪な表情をしている。

ソウマは、そう思った。

「ですが、私にできることは、させて頂きます」

 ティアスは、追い縋るように、告げる。

「ありがとうございます」

 ソウマは、顔を上げ、ほほえみを返した。

「それでも、話せないことはありますが」

「話せることだけ話してください。クノスもそうしていました」

 クノスと呼び捨てにした一瞬、ティアスの表情が失われる。

「失礼。クノスと呼ぶように言われていたもので」

「では、私のことも、ティアスとお呼びください」

 困ったように、言い訳してみせるソウマに、ティアスは、そう求めた。

ソウマと親しくしたいという気持ちより、クノスと並びたいという意識がそうさせていた。

「わかりました。では、私のこともソウマとお呼びください」

 そして、ソウマは、帝国に新たな友人を得ることとなった。

新たな鎖であり、楔であると知りながら、それでも、そうせざるを得なかった。

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