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まず、クノスの人となりについて、話が及ぶのは自然な流れであった。
共通する知己であり、互いに興味もあった。
機密に抵触する恐れも少なく、踏み込む前の緩衝材としては適当であった。
「クノス様は、士官学校時代から、周りから抜きん出た存在でした」
「昔から、お知り合いだったのですか?」
「当時は、数回話したことがある程度です」
ティアスが語るクノスは、正に理想の帝国士官の姿を体現したものであった。
勇敢であり、賢明であり、公正である。
その人物像は、ソウマが抱いているものとは、やや異なるものであった。
だが、それを否定するするつもりはない。
人の表情とは、多面的なものであると理解していた。
ソウマは、クノスの横顔を連想しながら、ティアスの言葉に耳を傾ける。
帝国で尊敬される立場にあり、一定の人望を集めている。
誇張があるにせよ、概ね事実であることをティアスの言葉は伝えていた。
それは、ソウマにとっても、好ましいことであった。
「クノスさんとも、戦ったことはありますが、貴方の操縦も負けてはいませんよ。
あの状況での反撃などは、余人には成し得ないものです」
「身体が動いていただけです。結果も伴っていません」
「ええ、二人で紅茶を飲んでいられるのも、そのおかげというわけです」
ソウマが、おどけてみせる。
そこで、ティアスは、初めて、そして、確かに、笑った。
そして、それに気づくと、自身をたしなめるように、こほんと咳払いをした。
「これは、紅茶と言うのですか?」
「はい、クノスさんも、気に入っていたので、お口に合うのではないかと考えたのですが」
「ええ、我々が普段口にしているものと似ていて、飲みやすいです」
ティアスの薄い唇がカップに触れ、喉が小さく揺れる。
ほっとため息をつく、その姿は、美しく麗しい。
戦闘兵器の操縦者と言われても、信じるものはいないだろう。
「このようなことになるとは、考えてもいませんでした」
「私の存在を知る帝国の方々は、皆そう思っているのではないでしょうか?」
「そうかもしれませんね」
「ですが、私は、帝国との邂逅を不幸だとは考えていませんし、不幸に導くつもりもありません。
うまくやってみせますよ。ティアスさんのことも含めて」
ティアスは、はっとし、顔を上げ、ソウマの表情を覗く。
二人の視線が重なる。
「ティアスさん、貴方は、どうすべきだと考えますか?」
「私は、それを答える立場にはありません」
「意地の悪い質問でしたね。忘れて下さい」
ソウマは、そっと視線を外す。
白いティーカップの中で揺れる紅茶には、自身の顔が映っていた。
中々に、醜悪な表情をしている。
ソウマは、そう思った。
「ですが、私にできることは、させて頂きます」
ティアスは、追い縋るように、告げる。
「ありがとうございます」
ソウマは、顔を上げ、ほほえみを返した。
「それでも、話せないことはありますが」
「話せることだけ話してください。クノスもそうしていました」
クノスと呼び捨てにした一瞬、ティアスの表情が失われる。
「失礼。クノスと呼ぶように言われていたもので」
「では、私のことも、ティアスとお呼びください」
困ったように、言い訳してみせるソウマに、ティアスは、そう求めた。
ソウマと親しくしたいという気持ちより、クノスと並びたいという意識がそうさせていた。
「わかりました。では、私のこともソウマとお呼びください」
そして、ソウマは、帝国に新たな友人を得ることとなった。
新たな鎖であり、楔であると知りながら、それでも、そうせざるを得なかった。




