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夜明けのソラの契承者 悠久漂流帝国  作者: やたか なつき
三章「侵略者」
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 茜色の照明と木製の調度が描く琥珀色の空間。

そこは歴史的な西洋建築物の書斎を連想させる空間であった。

だが、そうではない。

それ証明するように、窓の外には、果てのない暗闇と、そして、茫とした光をまとう蒼穹があり、

その場所が、宇宙にあることを伝えていた。

 狭すぎず、広すぎない。

そんな室内には、一組の男女の姿があった。

アンティーク調の円卓に、二脚の椅子があり、互いに向かい合うように座っている。

男性はソウマであり、女性は招かざるを得なかった客である。

「お名前を、教えて頂けますか?」

 まずは、はじめの一歩を踏み出さんと、ソウマは、話しかける。

柔らかく、微笑みながら、壊れ物を扱うような慎重さを以って、名を問う。

鋭い視線、緊張した四肢。

対面に座す女性は、明らかに警戒していて、まずは敵意がないことを示す必要があった。

「まずは、ご自身が名乗られては、如何でしょうか?」

「これは失礼。ソウマとお呼びください」

 帝国にも地球と同様の文化があるのかと、苦く笑いながら、ソウマは答えた。

「ティアスです」

 女性は、短く、だが、はっきりと名を告げた。

とりあえず、意思の疎通が成功したこと、そして、対話の意思があることに、ソウマは、胸を撫で下ろす。

 ティアスは、カイパーベルト帯に現れた帝国の襲撃部隊の一員である。

赫狼との戦闘の中で意識を失い、搭乗していた機動装甲と共に鹵獲された。

船へと運び込まれた後、意識を取り戻し対話に臨んでいる、というのが現在の状況である。

 ソラは、船に入れることを強く反対したが、最終的にはソウマの希望に屈した。

地球に降ろしても、手間が増えるだけと考えたためである。

 意識を失っていた時のティアスは、眠り姫とでも形容することが相応しい様相であった。

その穏やかな相貌からは、優しく、慎ましい女性像が連想されたが、それが思い込みに過ぎなかったことは、現在が証明している。

ティアスは、ソウマに対し、如何にも、敵意を顕にしていた。

この気性の強さは、軍に属するが故に備わった後来のものか、或いは、帝国の女性に共通する生来のものなのか、興味は尽きない。

何れにせよ、この程度で、気持ちが揺れる、ソウマではない。

「まずは、貴方を人道的に遇することを宣誓させて頂きます。

生命、及び、思想の自由を尊重し、行動に制限を課すことも控えたいと考えています」

「感謝します」

「その上で、幾つか質問することを許して頂きたい」

 言葉に、ティアスは表情を硬くする。

身構えて然るべきであるので、ソウマは、気にせず話を進める。

「ティアスさんは、我々の存在について、どの程度ご存知でしょうか?」

「回答を致しかねます」

 それは、識っていると答えているも同義であった。

一般の帝国臣民には、地球の存在さえも報されておらず、また、その予定もない。

そのことは先の会談で伝えられていた。

つまり、識っているということは、襲撃に明確な意図があったことの証左に他ならない。

例えば、過激派の暴走を止めるために、部隊を派遣するのであれば、ソウマの存在を伝える必要はない。

だが、それを追求するつもりはない。

そも、解っていたことだ。

前置きにすぎない。

「なるほど、では、質問を変えましょう」

 とはいえ、気の利いた言葉など、そうあるものではない。

ソウマは、余裕をみせながらも、困っていた。

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