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赫狼は、射線を躱しながら、電磁投射砲を打ち払う。
これは既に、どうにもならない。
それでも、どうにもならないなりに、できることはある。
より速く、より強く。
ソウマは、意識し、実行する。
打槍は、より速く、より強く、電磁投射砲を打ち払う。
破壊するためではなく、弾き飛ばすための選択である。
だが、それだけでは、足りない。
赫狼は、減速をかけながら、相対する機動装甲の腕を掴む。
相対速度の差からなる衝撃が機体を襲い、腕の関節が悲鳴を上げるが、想定の内である。
ソウマは、そのまま、引き寄せるように、機体と機体を重ねた。
行き場のない速度を錐揉の中で減衰させ、その前後を入れ替えた状態で安定させる。
結果、赫狼は、機動装甲の盾として、電磁投射砲の間に、割り込む形となる。
極芸であった。
間もなく、電磁投射砲は、自らが投射せんとした威力により自壊した。
赫狼の背を衝撃が襲うが、損傷を与えるほどではない。
ソウマは、赫狼の腕をほどき、抱きかかえていた機動装甲を自由にする。
反撃を警戒するが、そも、反応がなかった。
搭乗者は、接触の衝撃で意識を失っていた。
とかく、結果として、赫狼は天狼弓をを含む六機の機動装甲から、一瞬で、火力だけを奪い取ったみせた。
それは、圧倒的な戦力差の証明であった。
「引くぞ」
既に、クノスは退避に動いていた。
赫狼が、機動装甲に気を取られている状況は、またとない好機である。
「ですが――」
「我々の任務は、情報を持ち帰ることだ。
今を除いて離脱の機会はない。
案ずるな、捕虜として、相応の扱いを受けるだろう」
捕虜ではなく、客人として、遇されるであろうことは、想像に難くない。
だが、クノスは、敢えて、口には出さなかった。
「了解しました」
五機の機動装甲は、微小天体の群れの中へと転進する。
同時に、その中に、仕掛けてあった爆破装置に信号を送った。
数秒後、起爆プログラムに順じ、連鎖的な爆発が発生する。
間もなく、飛礫の弾幕と金属製の煙幕による、結界が形成された。
ソウマは、反応しない。
何もせず、五機の機動装甲の背を見送った。
追撃の意思はない。
そもそも、戦闘の意思など、初めからなかったので、必然の対応である。
さらに言えば、抱えている機動装甲を捨て置いて、追撃するわけにも行かなかった。
「ままならないな」
「どうなさいますか?」
「連れて帰るしかないだろう」




