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夜明けのソラの契承者 悠久漂流帝国  作者: やたか なつき
三章「侵略者」
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 赫狼と天狼弓。

地球と帝国の人型兵器が宇宙で対峙していた。

 状況は偶然ではない。

ソウマが航宙戦力を持っていないわけがなく、

であれば、それを伴って実力行使に出てくることは必然。

 想定できるのであれば、あとは利用すればいい。

そして、アイリスは、この状況を選択した。

つまりは、偶発的な戦闘の誘導である。

「同じ人型兵器とは、因果だな」

 クノスは、震える心を戒めるように、口元を歪め、その手を握りしめた。

 戦端が開かれる。

天狼弓は機体を後退させながら、構えた電磁投射砲の狙いを定める。

赫狼は、その動きに対応し、回り込むように加速する。

 天狼弓が装備する電磁投射砲は、その名が示すように、実体弾を電磁的に加速し投射する兵器である。

長射程と高精度を実現する兵器ではあるが、砲身が長いため近距離戦闘には適していない。

赫狼の機動は、それを読んでのものである。

射線を外しながらの、踏み込みは、正に、最適解であった。

「全く、いやらしいな」

 天狼弓は、腰に携行されていた荷電粒子砲を素早く抜く。

ばら撒いて、赫狼の接近を牽制する。

かすりもしなかったが、それは問題ではない。

問題は、勢いを殺せていないことにある。

「通らないか、識ってはいたが」

 熱光学兵器への高度な対抗技術を有していることは、既に地球で経験させられている。

人が携行しているのであれば、兵器にも搭載されている。

想定して然るべきである。

 荷電粒子砲は、帝国の軍用機動装甲の標準装備であり、主兵装でもある。

それが役に立たないと想定したからこそ、備えとして電磁投射砲を携行している。

 左の荷電粒子砲で牽制し、右の電磁投射砲で打撃を与える。

狙いは、悪くはない。

だが、それを成せるかは、また別の問題である。

 赫狼の機動力は、天狼弓を圧倒していた。

追いつめられていく。

クノスは、苦し紛れに、電磁投射砲を撃ってみせるが、どうにもならない。

間もなく、赫狼と天狼弓の間にあった距離は失われた。

「やはり厳しいか」

 赫狼の打槍が天狼弓の電磁投射砲を捉えんとした瞬間だった。

「警告:高熱源体反応」

 ソウマは、咄嗟に赫狼を逆進させる。

瞬間、赫狼と天狼弓の間を、閃光が射抜いた。

後退し、回避運動に入った赫狼を射抜かんと、追撃が撃ち込まれる。

一条、二条、三条。

矢継ぎ早に放たれる、粒子砲を赫狼は、軽やかに躱していく。

その軌道は、正に自在であった。

「また、不意打ちか」

「敵機捕捉。人型兵器。数は五」

 ソウマは、新たに展開した情報窓に視線をやり、敵の姿を確認する。

「悪いな。はじめから一機でやろうとは、考えていない」

 戦力差があることは、想定の内である。

勝とうとも考えてはいない。

問題は、どこまで通じるかであった。

「つきあってもらうぞ」

 クノスは、微笑っていた。

言葉をかければ、ソウマは手を抜く。

確信があった。

だからこそ、そうはしない。

 六機の機動装甲が、赫狼を狩り殺さんと襲いかかる。

それは練度の高い連携であった。

先陣の四機は、四方から牽制を続けながら、追い込んでいく。

後陣の二機は、その後背から、戦況を瞰視し、援護を行う。

先陣の四機の隙をついて、攻勢に転じようとしても、後陣の二機がそれを許さない。

「これはやりづらいな」

 赫狼の機動力は、機動装甲を圧倒しているとはいえ、六機を同時に相手をするとなると、それなりに集中しなければならない。

周辺には、無数の微小天体が漂っており、それらの軌道も無視できない。

ソウマは、前後左右上下、あらゆる方向を監視し、状況を処理していく。

 機動装甲が携行する粒子砲の威力は、先刻の大型随行兵器が放つ砲火と比較すると、それなりといったものであった。

直撃したとしても、防護障壁に阻まれ霧散するため、問題にはならない。

それでも躱し続けるのは、遊んでいるからではなく、現在の均衡を維持するためである。

つまりは、時間稼ぎである。

ソウマは、回避運動を続けながら、打開策を考えていた。

そして、間もなく、答えは出た。

「正々堂々、正面から」

 ソウマは、奥歯を噛み、そして、瞳を大きく放った。

赫狼の背面に装備された両翼の推進装置がわずかに変形する。

後陣にいたクノスは、その予兆を捉えていた。

それだけでも、誇るべきである。

だが、どうすることもできない。

電磁投射砲の照準が同期した瞬間、既に、それは終わっていた。

 赫狼の姿は、視界から失われた。

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