6
赫狼は、回避運動へと移る。
その判断と実行は、反射の如く、自動的であった。
機体を捻り、射線を外しながら、推進装置を励起させる。
瞬時に、ベクトルを加算された機体は、ずれた。
それは時間と空間を歪めたかのような、奇妙で異質な機動であった。
数瞬の間があり、閃光が至る。赫狼があった空間が白く消失した。
直撃は免れたが、放射は止まらない。
光は赫狼を追いすがり、撫ぜるように小惑星の表面を蒸発させていく。
「報告:荷電粒子兵器と推定」
完全に躱しきれているわけではない。
光線から拡散する粒子に曝されている。
それでも、赫狼に損傷がないのは、熱光学兵器に対する防護障壁が機能しているためである。
機体の全面に展開された球形の力場。
不可視である筈のそれが輝いて視えるのは、打ちつける粒子の雨に反発しているからである。
そうでなければ、機体はその影さえも失っていただろう。それほどの熱量であった。
赫狼が、微小天体の影、射線の死角に入ると、やがて、閃光は収束し、失われた。
「こちらに交戦の意志はありません」
ソウマは、すぐに広域通信で呼びかけるが、反応はない。
「問答無用というわけか」
ソウマは、射線から推定した、敵対機の位置を、情報窓で確かめ、そして、飛び出した。
再び、閃光が放たれる。
だが、それは、既に問題にならない。
赫狼の機動力を持ってすれば、躱すことは難しくない。
不意さえつかれなければ、どうということはない。
赫狼は、周辺を漂う微小天体を盾にしながら、その隙間を縫うように飛ぶ。
どこに向かうべきかは、敵対機自身が教えている。
赫狼は、光を辿り、迫っていく。
そして、捉えた。
そこには、砲台の如き大型随行兵器を携えた人型機械の姿があった。
「追いついた」
その機影には、覚えがあった。
ソウマが地球で相対した天狼弓と特徴を同じくしており、帝国の機動装甲であることは疑いない。
赫狼は、機動装甲の上を取ると、背部に携えていた超硬度打槍を抜き放ち、襲いかかる。
狙いは、大型随行兵器である。
打槍が叩き込まれ、砲身は拉げ歪み斬り潰された。
使いものにならなくなったことは、明らかである。
機動装甲は、赫狼の接近を許した時点で、随行兵器を捨てる判断をしていた。
既に退避し、打槍の間合いの外まで、距離を取っている。
だが、それは問題ではなかった。
そも、追撃の意志は、ソウマになかった。
「交戦の意志はありませんし、投降しろとも言いません」
ソウマは、宣言するが、やはり返答はない。
相対する機動装甲は、背部に携行していた電磁投射砲をゆっくりと構え、交戦の意思を示した。
「では、どうするつもりだ?」
改修された蒼天弓の搭乗席で、クノスは呟いた。
その声は、ソウマには届いていない。




