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夜明けのソラの契承者 悠久漂流帝国  作者: やたか なつき
三章「侵略者」
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 ソウマの状況判断は速かった。

帝国が通信に応答する気がないことを察すると、すぐに実力行使に打って出ることを決めた。

正しくは、そう決めていたわけだが、何れにせよである。

意思決定から、四十八時間を待たず、地球圏から派遣された戦力は海王星圏に抜け、その外縁であるカイパーベルト帯に到達していた。

 地球人類の基準では、ありえない話であるが、恒星間航行を実現する技術階層に到達した文明にとっては、できて然るべきことである。

そうでなければ、地球の管理者と嘯くに足る資格はないとも言える。

とかく、太陽系は、ソウマとソラにとって、庭のようなものである。

「さて、そろそろか?」

 果てのない空間を人型の機影が駆け抜けていく。

星々を置き去りにする速度であるが、それ以上に、宇宙は広く、対照物としてある星々の位置変化は余りに緩やかであった。

視界から得られる体感速度は限りなく遅く、それ故に、退屈である。

だが、それも、終わる。

「報告:対象宙域に入りました。巡航形態を解除し減速。権限を移譲します」

 ソウマは、視覚情報を機体と同期させ、瞑っていた瞳をゆっくりと開く。

見慣れない星座と、帯のように連なる無数の小惑星。

眼前に広がる光景は正に壮大であった。

 ソウマは、普通の人間とはいえないが、それでも人間である。

生身のまま宇宙空間で活動できるわけではない。

そのための装備が必要であり、それこそが派遣された唯一の戦力である人型の自律機械"機動装甲"であった。

ソラが称した、その名は、奇しくも、帝国が保有する人型機械の総称と酷似していた。

名は体を表す。

共に、人に纏われる外装として機能を補完するものであり、求めるところが共通しているのであればこその合致であるのかもしれない。

そう考えれば、蓋然でもある。

 機体名は、"赫狼"。

ソウマは、自身が駆る愛機を、そう名付けていた。

「警告:間もなく、小惑星帯の中心領域に入ります。障害物に警戒して下さい」

 ソウマに、迷いはない。

その気勢に応じるように、赫狼は、宇宙の岩礁へと突入していく。

 世界が一変した。

速度と時間が、真の姿を現し、牙を剥く。

踏み込んだのは、巨岩の群れが飛礫の如く飛び交う狂嵐の領域であった。

 ソウマは、自身を操るように、軽やかに、微小天体の群れを躱していく。

赫狼の防御は堅固ではあったが、それでも、かするだけで相応の損傷を被る。

質量も速度も余りに違いすぎる。

 赫狼が加速したわけではない。

むしろ、減速している。

つまり、宇宙の広大さに狂わされていた体感速度が正常に戻ったとも言える。

 減速すれば危険は、それだけ小さくなる。

だが、ソウマは、そうはしない。

帝国の索敵を警戒するのであれば、逆に高速で小惑星帯へと突入し、

その深くへと潜り込んでしまう方が、得策であると考えた。

パラシュートによる潜入作戦で用いられるHALO降下と同様の発想である。

 眼球が踊る。

それに連動するように、赫狼も踊る。

体積座標、相対速度、侵入角度。

視覚からもたらされる情報を瞬時に把握し、最適な判断を繰り返す。

間断なく繰り返される一瞬の交錯。

微小天体の表面をなぞるように、赫狼は翔ける。

それは、さながら、死の舞踏であった。

「報告:間もなく、指定座標です。減速を提案します」

 声に応じ、ソウマは、赫狼という名の分身を操る。

ソウマの意識と赫狼の身体は完全に同期している。

赫狼は、鏡の如く動きを映し、その姿勢を反転させる。

推進装置を励起し、速度を相殺する。

恐るべき制動が機体を襲うが意に介さない。

赫狼の強度も、ソウマの意識も、それを問題にしない。

 そして、赫狼は、背にしていた小惑星にゆっくりと、吸い込まれるように、足をついた。

「報告:指定座標に到達しました」

 響いたソラの声が、旅の終わりを告げる。

世界との相対速度に同期するように、意識が減速していく。

ソウマは、闇と灰色の宇宙を俯瞰し、或いは、仰望し、ため息をついた。

 その世界は、余りに、孤独であった。

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