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帝国と地球。二つの人類の指導者が相まみえた、最初の、そして、最後の会談から一ヶ月が過ぎていた。
太陽系方面の偵察に派遣された帝国第二艦隊は、未だ木星圏に駐留している。
資源の採掘をしながら、帝都が太陽系に最接近するのを待っているというのが現状である。
帝都から太陽系へとアイリスを運んだ超光速航行は、帝国でも最新鋭の技術であり、
全ての艦艇に搭載されているわけではなく、また対象の質量比に応じて資源の消費が増大するとのことで、
艦隊規模の移動には適さないとのことだ。
真偽はさておき、そういうことであればと、ソウマは駐留を許可した。
未練もあるが、帝国との連絡は既に途絶えて久しく、クノスとは、別れの挨拶さえできていない。
報告のため、既に帝都に帰還しているとのことで、会談の前に交わした言葉が最後となっていた。
後ろ髪を引かれながら、それでも、ソウマは、日常へと還るしかなかった。
ソラから報告が入ったのは、そんな時節だった。
「報告:帝国の分艦隊の一つに不審な動きがあります」
ソウマの視覚に、情報窓が展開され、静止画が表示される。
そこには巨大な岩石を髣髴とさせる灰色の小惑星天体が映されていた。
「偵察衛星からの映像です。場所は海王星近縁のカイパーベルト帯」
「これがどうした?」
「ご覧ください」
言葉と共に、画像の倍率と解像度が切り替わり、
さらに小惑星天体の傍らに映っていた何かの陰影が画像処理により顕にされる。
そこには木星圏に駐留する帝国艦と特徴を同じくする艦影があった。
「こんなところで何をしているんだ? 資源の盗掘であるなら、まぁ見逃してもいいが」
地球人類には手が届かない場所である。
捨て置いても、影響はない。
そも、地球人類は権利の主張もすらしていない。
「資源の採掘は行われているようですが、それだけではありません。小惑星に推進装置を取り付けているようです」
新たな情報窓が展開し、小惑星に機械的な何かが、埋め込まれている様子が映し出される。
「推進装置?」
「質量兵器であると推測します」
ソラは、結論を端然と述べた。
「なるほど、目標は言うまでもないか」
「取り付け作業が進行中の小惑星は三基。
小惑星が帝国艦と同等の推進力を得るものと想定した場合、地球人類の技術による迎撃は困難です」
「地球に落ちればどうなる?」
「一基であっても、地球を崩壊させずに、人類を滅亡させるには、理想的な質量です」
ソウマは、聞くまでもないことと、自覚していたが、やはり、聞くまでもないことであった。
「問題は、帝国としての意向か、一部の過激派の暴走か、という点に尽きるな」
「何れにせよ、選択肢は限られていると考えます」
「と言うと?」
「話すか、叩くかです」
「まずは前者だな」
「わかりました」
「お気に入りの小惑星を持ち帰るつもりだった。とか、そういうシナリオを提案したいところだが」
「信頼しすぎるのも考えものであると考えます」
「心に留め置くよ。とはいえ、遥かな宇宙で廻り逢った奇跡の出会いだ」
ソウマの表情に憂いはなく、寧ろ、楽しげでさえあった。
この事変をにわかに歓迎していた。




