表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜明けのソラの契承者 悠久漂流帝国  作者: やたか なつき
二章「調停者」
36/94

17

 ガルギードの放った横薙ぎは、ソウマの身体をくの字に曲げ、そのまま払い飛ばした。

ガルギードの腕には、重く確かな手応えがあった。

だが、一方で、勝負を決めるには至っていないことを理解していた。

ガルギードには、ソウマの動きが視えていた。

 ソウマは、咄嗟に手にした棒を地面に突き立て、支点として身体を逃し、また盾として一撃を受けた。

発想も然ることながら、驚愕すべきは、それを瞬時に、そして、正確に再現できる身体性能である。

「あれを受けられるとはな。いや、みごとだ」

 体勢を整え、立ち上がるソウマに、ガルギードは賞賛の言葉を送る。

斥力障壁を使うことに躊躇いはない。

持ち得るもの全てを惜しみなく捧げる。

それが戦いであると心得ていた。

それでも、鍛えた技に依らない機能に依ってなされた優位に、武人として憂いがあることも確かだった。

「かなり危なかったですよ」

 ソウマは、苦笑いを浮かべながら応えた。

致命打とはなっていないが、その威力は凄まじく、無傷とは言えない。

衝撃の残滓が全身の反応を鈍らせている。

どうしたものか、そう考えていると、ソラの言葉が頭に響いた。

「報告:時間です」

「わかった」

 ソウマは、頭の中で静かに応えると、アイリスに視線をやり一礼した。

「なんのつもりだ?」

 アイリスは首を傾げる。意図がわからない。

「予め、お詫びを申し上げておこうと」

「詫び?」

「ええ、それと――」

「それと?」

「時間稼ぎです」

 ソウマは、微笑みかけながら、そして、手の握りを確かめる。

痺れはない。

「ガルギード」

 アイリスは、ベールの奥で、冷たく微笑むと、静かに叫んだ。

 雷が如き、踏み込みから、放たれる強撃。

だが、先刻の再現とはならない。

ソウマは、読んでいた。

誘ったのであれば、尚のことである。

 ソウマは、初撃を片手で捌き、後ろに跳んだ。

ガルギードは、それを逃さない。

狙いは足元。

獣が如く、低く踏み込み、鋭く払う。

 脛斬り。

それはガルギードが初めてみせた下段。

意識の隙をつく慮外の技であった。

視えない。

老練な武芸者が攻防の果てに辿り着いた終の一手。

終止符が打たれる。

その筈だった。

 だが、ソウマは、これこそを待っていた。

そのために跳んた。

 ソウマは、足を打ち抜かんと迫る打突を、上から蹴り潰し制した。

「ばかな!?」

 驚愕に、ガルギードの反応が一瞬遅れた。

ソウマは既に動いている。

蹴り足と共に踏み込み、片腕を振り下ろす。

技巧も何もない大振りの一撃。

先刻の再現である。

 踏み抜かれた棒は微動だにしない。

ならば、握る手を放せばいい。

後ろに跳びながら、斥力障壁で受け、反撃に転じる。

ガルギードは、攻勢の流れを構築し、実行する。

いや、実行しようとした。

だが、できなかった。

壊れたはずの左手が、ガルギードの腕を掴んでいた。

そう、治っていた。

ソラは、それをソウマに告げていた。

 斥力障壁にも弱点があった。

対象となる空間に、既に一定以上の体積を有する物体が存在すると、干渉を受け障壁の構築に遅延が生じる。

ソウマとガルギードは、近すぎた。

その上、物理的にも連結していた。

斥力障壁は、間に合わない。

 困惑と混沌。

ガルギードは、振り払うように、奥歯を噛み締め、渾身の力を持って、それを躱した。

発生しかけた斥力障壁が絡みつき、数瞬、攻撃の軌道を歪めたが故のことでもある。

だが、それも、ソウマの想定の中である。

 ソウマは、逃さない。

最後の一歩を踏み込む。

姿勢を崩したガルギードの体を深くを抉るように低く、そして、強く踏み込んだ。

想定し得ない力で踏み抜かれ、石畳が罅割れ、隆起する。

 そして、伝えられる全ての力が、打ち込まれる。

それは中国武術八極拳の靠撃という技法に似ていた。

想像を絶する威力がガルギードを貫いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ