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夜明けのソラの契承者 悠久漂流帝国  作者: やたか なつき
二章「調停者」
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15

 ソウマは、片膝をつき、腕を抑えてみせる。

ガルギードの目配せに応じ、アイリスの傍らに控える女官が決着を宣言しようとする。

「まだだ」

 だが、それをアイリスは許さない。

「まだやれる。そうであろう?」

 アイリスは見逃さない。

ソウマの瞳は死んでいなかった。

蹲りながらも、ガルギードを捉え、追撃に備えていた。

「たばかるな」

「わざと受けたわけではありませんよ」

 ソウマは、涼しい顔で立ち上がる。

既に痛覚は遮断している。

とはいえ、腕が瞬時に治るわけではない。

身体は、あくまで地球人類のものだ。

骨を砕かれた左腕は、だらりと垂れ下がっている。

「落とし所を探っただけです」

「やる気がないようだな」

 アイリスの言葉は、ソウマだけではなく、ガルギードに対しても向けられていた。

ガルギードもまた、ソウマの演戯に気付いていた。

それでいて、敢えて、終わらせようとした。

「そのようなこともないのですが、とはいえ、私に理由がないのも確かです」

「なるほど、わかった。では、褒美を取らせよう。望みを言え」

 ソウマは、困った。

太陽系に留まり、地球人類と共に歩めなどと大仰なことは言えない。

となると、帝国に望むことが考えつかない。

ソウマは悩み、ふと、先刻のことを思い出した。

「では、私が勝ったら、アイリス様のお顔を拝見させて頂くというのは、如何でしょうか?」

 興味もあったし、要求として重すぎることもない。

絶妙な折衷案であると、ソウマは、そう考えた。

「女官の方でも、構いませんが」

「よかろう」

「閣下!」

 女官は激昂し、ソウマを睨みつけた。

その剣幕に、ソウマは、ややたじろいだ。

「なに、ガルギードが負けなければよい。であろ?」

「御意に」

 ガルギードは応え、ソウマに向き直る。

その気勢は、先刻の比ではない。

「どうやら、火をつけてしまったようですね」

 帝国の女性にとって、顔は重要な意味を持つのかもしれない。

ソウマは、特に考えもせず、放った自身の言葉を後悔した。

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