15
ソウマは、片膝をつき、腕を抑えてみせる。
ガルギードの目配せに応じ、アイリスの傍らに控える女官が決着を宣言しようとする。
「まだだ」
だが、それをアイリスは許さない。
「まだやれる。そうであろう?」
アイリスは見逃さない。
ソウマの瞳は死んでいなかった。
蹲りながらも、ガルギードを捉え、追撃に備えていた。
「たばかるな」
「わざと受けたわけではありませんよ」
ソウマは、涼しい顔で立ち上がる。
既に痛覚は遮断している。
とはいえ、腕が瞬時に治るわけではない。
身体は、あくまで地球人類のものだ。
骨を砕かれた左腕は、だらりと垂れ下がっている。
「落とし所を探っただけです」
「やる気がないようだな」
アイリスの言葉は、ソウマだけではなく、ガルギードに対しても向けられていた。
ガルギードもまた、ソウマの演戯に気付いていた。
それでいて、敢えて、終わらせようとした。
「そのようなこともないのですが、とはいえ、私に理由がないのも確かです」
「なるほど、わかった。では、褒美を取らせよう。望みを言え」
ソウマは、困った。
太陽系に留まり、地球人類と共に歩めなどと大仰なことは言えない。
となると、帝国に望むことが考えつかない。
ソウマは悩み、ふと、先刻のことを思い出した。
「では、私が勝ったら、アイリス様のお顔を拝見させて頂くというのは、如何でしょうか?」
興味もあったし、要求として重すぎることもない。
絶妙な折衷案であると、ソウマは、そう考えた。
「女官の方でも、構いませんが」
「よかろう」
「閣下!」
女官は激昂し、ソウマを睨みつけた。
その剣幕に、ソウマは、ややたじろいだ。
「なに、ガルギードが負けなければよい。であろ?」
「御意に」
ガルギードは応え、ソウマに向き直る。
その気勢は、先刻の比ではない。
「どうやら、火をつけてしまったようですね」
帝国の女性にとって、顔は重要な意味を持つのかもしれない。
ソウマは、特に考えもせず、放った自身の言葉を後悔した。




