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「個人的な頼みですか? 私の裁量でどうにかなるものであれば」
「安請け合いはしないか、その在り方は好ましい。いや、そう構えずともよい。大した話ではない」
アイリスは、促すように、傍らに直立し続けていた、壮年の男性を視線で示した。
「ここに控えるガルギードは帝国最強の武人だ。クノスが師事したこともある。卿と手合わせをすることを望んでおる」
「閣下、お戯れを」
アイリスの言葉に、異を唱えたのは、ソウマではなく、ガルギードであった。
不動の姿勢のまま、威厳のある声で、堂々と拒んでみせた。
「よいのか? ここで刃を交えねば、機会は永遠に失われるぞ」
「ですが」
「如何な結果になろうとも、互いに遺恨を残すことなどなかろう? 他言もさせぬ」
同意と確約を求められ、ソウマは苦く笑うしかない。
「余の意向でもある」
命令であり、考えがあると、暗に示す言葉には、威があった。
ガルギードに次の言葉はない。
「ということだが、応じてくれるか?」
既に、断れない空気であった。
明確な意図があることを匂わすアイリスの言葉も無視できない。
ソウマは、やや困ったような笑顔をつくり頷くしかなかった。
間もなく、三人の女官が現れた。
二人の手には、棒状の長得物が携えられていた。
刃がないとは言え、武器には変わりない。
侮られているからか、或いは、認められているが故か、ソウマは少し考え、考えることを諦めた。
ソウマは、ガルギードに促され、席を立つと、共に、鳥籠の階段を降りた。
女官から武器を受け取ると、二人は左右に別れて対峙した。
太陽が月に隠されるが如く、庭園に夜が訪れる。
闇は薄く、朧な光が互いの姿を、茫と明らかにしている。
「卿の腕は知っている。先の戦いは見事だった」
「お手柔らかにお願いします」
ガルギードは、敢えて、告げた。
知った上で、挑んでいると伝えた。
それは武人としての矜持がさせたことである。
「では、参るぞ」
その言葉を置き去りにし、ガルギードは翔けた。
「なっ!?」
それは、地球人類の知覚を凌駕する速度だった。
クノスの比ではない。
虚動のない純粋な一撃。
それ故に速い。
薙ぎ払うように放たれた一閃は、ソウマの脇腹を捉えていた。
躱せない。
ソウマは咄嗟に受けようと構えた。
だが、間に合わない。
ソウマの身体に衝撃が奔る。
互いの得物が交錯する。
だが、そこに与えられた威力は違いすぎた。
ガルギードの一撃は、ソウマの守りをたやすく払い崩し、その左腕を無惨に容赦なく破壊した。




