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ソウマは、待ち合わせた場所で、天を仰ぎ、軌跡を追う。
視線の先には、星の世界をくだり、夜空をかける、何かがあり、
その輪郭は、ゆっくりと、だが確かに、曖昧さを失っていく。
長くもなく、短くもない時が過ぎ、やがて、帝国の連絡艇は、地球へと降り立った。
「さて、どうねぎらったものか?」
ソウマは、クノスにかけるべき言葉を探すが、考え至らない。
暇つぶしに過ぎず、それほど真剣に考えていたわけではない。
いずれにせよ、それは徒労に終わった。
連絡艇の側面が隆起し、船内へと続く乗降壁が開放される。
同時に、舷梯が降り、地表と船をつなぐ通路が現れる。
だが、降りてきたのは、クノスではなかった。
そこには、修道服を連想させる白い全身装束を纏った三人の女官の姿があった。
ベールで顔を隠していたが、その姿形から性別を推し量ることができた。
「ソウマ様でいらっしゃいますね? 帝国の名代として、お迎えに上がりました」
「予定は変更ということですか」
迎えに現れる筈のクノスの姿はなかった。
「私どもは、ソウマ様をお迎えするように仰せつかったのみでございます。
それ以上のことは存じておりません」
「わかりました。行きましょう」
ソウマは、颯爽と応じた。
問答をしても仕方がないことは自明である。
選択肢は多くあったが、選ぶべきは決まっていた。
女官たちは、恭しく頭を下げると、ソウマを連絡艇へと招き入れた。
なかなかに幸先がいいと、ソウマは、心のなかでため息をついた。
予定外は連鎖する。
歯車が一つ狂えば、機構の全ては破綻する。
最悪の結末を回避するために、ソウマは、最悪の状況を想定する。
「長い夜になりそうだ」
紡がれたつぶやきは、誰に向けられたものでもない。




