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間もなく、その夜は訪れた。
地球と帝国、両文明が初の公式会談を執り行った日として、公文書に記録されるべき日であることに疑いはない。
だが、例によって、地球人類文明を代表する者の姿は、テーブルにはない。
未だ揺りかごの中で微睡んでいる。
約束の時間が訪れようとしていた。
月の裏に隠れていた帝国の分艦隊から、一隻の小型艦が離れ、地球にその進路をむける。
地球と星の世界をつなぐ船。
天球図を仰ぎ、その軌跡を追いながら、ソウマは考える。
この会談は、地球、及び、地球人類の未来に大きな影響を与えることに疑いはない。
だが、地球の代表として、席につくのは地球人類に選ばれた存在ではなく、管理者を自称する個である。
この行いは、果たして正しいのだろうか?
そも、己の在り方は、果たして正しいのだろうか?
それは手垢のついた自問自答であったが、一方で、鍵のない枷であり、逃れ得ない宿命でもあった。
ソウマは、理解している。
言うまでもなく、傲慢以外の何物でもない。
だが、一蹴できる理もあった。
「――気づかないのが悪いか」
それが全てであった。
招待してはない。だが、席がないわけでもない。
欠席者に、発言権はない。
それだけの話しである。
「報告:小型艦が指定の軌道に入りました」
「他は、どうだ?」
「木星外縁の帝国第二艦隊、及び、地球圏に駐留する分艦隊、共に動きはありません」
月軌道より内側への接近許可は、地球に接近しつつある小型艦一隻に限定している。
クノスが言うには、最大限の敬意を払った結果として、最新鋭艦が派遣されたとのことだ。
一隻だけでも、地球人類文明を滅ぼすに十分な攻撃力を有しているであろうことに、疑いの余地はない。
「信じるしかないか」
「信じていないのですか?」
「それなりに信じているよ。だが、予期しないことは起こり得るというだけだ」
ソウマは、ネルージャケットの襟元に指を入れ、首をならす。
会談のために礼服を着ているのだが、まだ、なじんでいない。
動きやすいものを選んではいる。
だが、そもそもが身体を動かすための服ものではない。
特に足元には不安がある。
「未来に座らせて、後ろに控えていた方が、よかったかな」
ソウマは、会談に臨む、堂々たる少女の姿を想像し、そして、前言を撤回した。
「いや、やるべきことが増えるだけだな」




