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夜明けのソラの契承者 悠久漂流帝国  作者: やたか なつき
二章「調停者」
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 ソウマは、帝国の動きを警戒しつつも、既に日常業務へと戻り、地球と地球人類のための環境保全に務めていた。

クノスは、ソウマと情報共有を図りながら、地球の文化について見聞を広めていた。

それは凪のような穏やかな時間であり、同時に、やがて訪れる嵐を予感させるものだった。

だが、それも、かすれていく。

「終わることが約束された日常が、終わらずに続いていくのではないか?」

 そんな錯覚を想起させるくらいに日々は繰り返され、そして、終わりは訪れた。

 地球人類が、変わらない朝を迎えた、その日、帝国は動き出した。

地球と地球人類文明、及び、それを管理する異星文明について、クノスが詳細な報告を行ってから、五四七時間が経過していた。

「五日後の夜、時間を貰えるか?」

 クノスは、いつもの席で紅茶を飲みながら、まるで大したことではないように告げた。

「構いませんが、何用でしょうか?」

「帝国の使者が地球に派遣されてくる。地球と帝国、両代表者による公式の会談を求めている」

「これは異なことを、私はこれが公式会談だと思っていますが」

「気持ちは嬉しいが、私は決められたことを伝えるだけの存在だ。交渉はできない」

「ともかく、承りました」

「地球軌道上に帝国艦を漂泊させ、そこで会談を執り行いたいというのが、こちらの希望だ。

まずは、地球圏への接近許可を頂けるかだが」

「わかりました。許可をしましょう」

 ソウマにとっては、都合の良い申し出であった。

断る理由はない。

軌道上であれば、監視も対応もしやすい。

帝国の艦艇で催されるということであれば、響宴の支度に頭を悩ませる必要もない。

問題がないわけでもないが、身の危険などは顧みるまでもない。

「ただ大艦隊を伴っての来訪は控えて頂きます。いろいろと困りますので」

「わかっているし、伝えてもいる。地球人類に捕捉されないようにうまくやる」

 文明の存亡に関わる決断に要した時間としては、十分過ぎる時間とは言えない。

だが、ソウマとクノスが信頼を深めるには、十分な時間であった。

会話の中に緊張感はない。

「会場までのエスコートは、クノスにお願いできますか?

帝国の船を使えば、警戒させることもないでしょうし」

「地球の大使の運転手か、光栄なことだ」

 それから、ソウマとクノスは、会談の開催に向け、様々な事項を確認し、詰めていった。

ソウマは拒むことはなく、クノスが求めすぎることもなかったため、間もなく、二国間会談の開催は正式に合意へと至った。

「さて、とりあえず、うやうやしい話はこれで一段落だ」

「お疲れ様です。

しかし、予想が外れて何よりです」

 ソウマは、クノスが先に宣告した代理戦争という言葉に言及した。

「そういうこともある。帝国は私の想定より賢明であったということだろう。誇らしいことだ」

 そこで、クノスは、はっとした。

何故、こうなっているのか、それを考えなくていいのだろうか?

「いや、或いは――」

 クノスは、唇から溢れかけた言葉を押し留める。

伝える必要はない。杞憂にすぎない。

そう考え、忘れることにした。

「どうか、されましたか?」

「なんでもない。帝国の代表には、皇帝派の文官が内定しているようだ」

「他の派閥の方々は?」

「伝統派と中庸派の高官はいないようだ。

ただ、武闘派の武官が護衛として、随伴してくる」

「なるほど」

「いずれにせよ、皇帝派が出てくるということは、

帝国の中で話は纏まっているということだろう」

「それは喜ばしい。

この調子で、会談も円滑に進むことを期待しましょう」

「そうであることを祈ろう。

帝国を信頼してくれているようで、私も嬉しいが、この一言だけは伝えておこう」

「なんでしょうか?」

「帝国は、私ほど、やさしくはない」

 ソウマは、うすく微笑み、小さく頷いた。

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