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会談、或いは、昼食会を終え、クノスと別れたソウマは、自室に戻り、対応中の事案について進捗を確認していた。
帝国との接近遭遇は、優先すべき事柄ではあるが、他にもやるべきことは数多あった。
それは義務ではない。
ソウマに命じる者はいない。
だからこそ、手が抜けなかった。
「ソラはどう考える?」
ソウマは、暗闇の空間に投影された青白い情報ウインドウ郡から、もたらされる情報を処理しながら、宛てどなくつぶやいた。
「回答できません。何についての質問でしょうか?」
「ああ、すまない。帝国への対応について、かな?」
「妥当であったとしか」
「質問を変えよう。帝国はどう出るかな?」
「回答:文明の接触は、秩序の再構築へと繋がる事象であり、双方に変化が生じることが避けられません。
帝国が変化を求めるのであれば、我々との交流を選択すると推測します。
帝国が変化を求めず、文明の保存をこそ尊重するのであれば、太陽系からの離脱を選択すると推測します」
「ソラはどちらを推しますか?」
「後者です。クノスから齎された情報を評価すると、帝国には太陽系に留まるつもりは、はじめからなかったと考えるのが自然です。
我々を脅威と認識した現在にあっては、接近それ自体を忌避するかもしれません」
「そうであれば、こちらとしても面倒がないが」
ソウマは、帝国の選択に意見するつもりはない。
だが寂しさを感じないわけではなかった。
「命題は、帝国が何を求めるか、その一点か」
「或いは、何故、帝国が宇宙を漂泊する存在となったのか」
「帝国の過去が、我々の未来を左右するということか」
それは、クノスに問うべきことであったが、ソウマはあえて触れなかった。
互いを識るべき時期がある。
ソウマは、そう考え、信頼関係の醸成こそを優先した。
知らないからこそできる話もあるということである。
剥き出しの情報は正に諸刃の剣に他ならない。
「いざとなれば、やるしかないが」
ソウマは、最も面倒な展開を予期し、懊悩する。
救いがたい自身を蔑むしかない。
やるべきことが積み上がっていく。
それは義務ではない。
だが、それは、やりたいことだった。




