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「では、はじめよう」
クノスは、まず帝国の動きを予測するための前提情報について、説明を始めた。
帝国の意思決定に大きく影響を及ぼす、四司代と称される派閥についてである。
「四司代は、伝統派、中庸派、武闘派、皇帝派と称される四大派閥によって構成される。
帝国内に公的機関として、あるわけではなく、あくまで個人の思想集団という体裁だ。
だが、派閥の幹部らは、帝国の中枢にいる要人であることが多いため、
派閥の思惑が帝国の治世に反映されることは少なくない」
どのような成り立ち、在り様であれ、国家は個の集合体であるという事実から逃れることはできない。
意見の衝突と理解に誘引された結果として、同様の思想を持った者たちが集まり、
派閥を形成することは必然であり、皇帝を絶対君主として仰ぐ帝国であっても例外とはなりえなかった。
「伝統派は、帝国の歴史や伝統の継承を第一義とする。
帝国は単一の種族からなる国家だ。
元来、保守的で排他的な思想が強いことは否定できない。
最も地球に敵対的な勢力だと考えてもらっていい」
「特に警戒の必要があると」
「断っておくが、帝国の臣民からの支持はあまり高くはない。
過ぎたるは及ばざるが如しということだろう。
とはいえ、彼らの思想は、これまで帝国をかたちづくり、支えてきたものであることは間違いない。
彼らの否定は、帝国の否定にも繋がる」
「とかく、相手をする時には、慎重にということですね」
ソウマは、既にうんざりしていた。
今後を考えると、とにかく頭が痛い。
続きを聞きたくはない。
だが、クノスはそれを許さない。
「中庸派は、現状においては、伝統派の抑止力として存在する派閥の色が強い。
だが、伝統派と敵対しているわけではない。寧ろ、思想としては最も親しい。
あくまで、伝統派が行き過ぎた時に、それを抑止する立場にあるだけだ」
「バランサーというわけですね」
「地球に対する姿勢は、現状では伝統派と変わりはない。
とはいえ、最も話がしやすい相手であることは、間違いないだろう」
「わかりました。続けて下さい」
「武闘派は、強さに重きを置く者たちだ。愚直な武人の集まりと考えておけばいい。
軍部の戦闘教官らが多く所属する派閥で発言権も大きい。
政治的な色はなく、地球にあまり関心はない。
だが、派閥の重鎮たちが、ソウマの腕を確かめたいと考えることは、想像に難くない」
「それは、迷惑な話ですね」
「だが、都合がいい。
ソウマが実力を示せばいいだけで、事足りる話だからな」
「なるほど、そうですね」
ソウマは、先刻の口上を想起し、首を傾げたが、あえて、何も言わなかった。
「最後に皇帝派だ。その名が示す通り、帝国皇帝を崇拝する一派だ。
皇帝の一存を全てにおいて重視する。
帝国臣民の思想に最も近い派閥でもある。
皇帝の思惑次第で、敵にも味方にもなるため、どう動くかはわからない。
だが、まずは静観するだろう」
「根拠があるのですね」
「皇帝派ではなくとも、皇帝への敬意がないわけではない。
献身を示す良い機会だからな。
先陣を切りたいという派閥があれば、譲ることは疑いない。
先んじて失すれば、皇帝の権威を傷つけることにもなる」
「なるほど」
「さて、ここまでで、何か質問はあるか?」
クノスの話は、帝国という国家を理解するための資料として、疎放ではあるが参考となるものであった。
ソウマは、話を整理し、幾つかの質問を頭の中でまとめていく。
疑問は多岐にわたっていた。
だが、まず、確かめておきたかったことは、帝国についてではなかった。
「そうですね。クノスは、どの派閥に?」
「それは――」
クノスは、答えず、困ったように微笑んでみせた。
ソウマは、敢えて、追求しなかった。




