2
「それで、ソウマは、これからどうするつもりだ?」
「ひとまずは待機ですかね」
「帝国の判断次第か」
「そういうことですね。我々のことは、どこまで報告を?」
「調査が急務と判断される事象と遭遇。警戒の必要性を認める」
「事象ですか、随分、言葉を濁しましたね」
「軽々しく報告できるような状況ではなかったからな」
クノスの言葉に嘘はないが、全てではない。
考えていた。或いは、迷っていた。
その結果、報告とは言えないような報告になった。
叱責を受けることは覚悟している。
「とにかく、確証は得られた。ありのままを報告し、判断を仰ぐ。私は帝国の審判官だからな。不服か?」
「異存はありませんよ。便宜は図ってくれると信じていますし」
「言うまでもないことだ。地球を脅威と認めることは私の要望にも叶う。が、最後に決めるのは私ではない」
「ええ、そうですね。失礼ですが、クノスの報告は、どの程度の影響力を持つのでしょうか?」
「そうだな、それなりには信頼され、それなりには尊重されるだろう。
が、報告が報告だからな。私の正気を疑われる可能性は大いにある」
「想定外に過ぎると」
「そもそも、私を地球に降ろしたのは、事前調査を裏付けるためでしかなかったからな。
最初から、結論は決まっていた」
「が、覆った」
「覆ってはいないさ。
地球人類文明の評価に変わりはないからな。
問題は、追記せざるを得ない点だ。
地球は異星文明の管理下にあり、その異星文明は極めて高度なテクノロジーを有している。
戦闘を挑んだ結果わかったのは、手も足も出ないことだけだ。
由々しき状況じゃないか」
「そうでもありませんよ。我々は友好的です」
「ああ、救われたよ。そうだ、我々は救われるのかもしれない」
クノスは、そっとつぶやく。
そこには深い感慨があった。
「直属の上司である艦隊指揮官は、話のわかる人間だ。
事実を事実として認識し、現実的な対応をするだろう。
問題は、さらに上が、どう判断するかだ。
帝国の統治は、基本的には理知的だが、それは内政という面に限る。
外交においては、その限りではない。状況も状況だ」
「なるほど、その判断次第で、クノスが厳しい状況に追いやられないとも限りませんか」
「いや、既に厳しいだろうな。私は地球に寄りすぎていると判断されるだろう」
「それは心苦しいですね」
「そんなことはない。
私は、組織の歯車でしかなった。だが、今は、自らの意志で行動し、選択している。
それは幸せなことだ。
だが、同時に、責任の重さも感じている」
クノスは、ソウマの表情を覗く。
自由であることの責任を背負ってきた者の在りように興味を惹かれていた。
「ソウマは、全て一人で決めているのか?」
「そうですね。我々のことは、私が決めています。そうせざるを得ませんから。ただ――」
「ただ?」
「口うるさい補佐の顔色を伺ってはいます」
ソウマは、天を仰ぎ、苦く笑ってみせた。




