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「さて、私に何を望む?」
クノスは、テーブルの上で手を組み、覗き込むような上目遣いで、ソウマに問いかけた。
戦いから一夜が明けていた。
ソウマとクノスは、二人がはじめて出会ったカフェのテラス席にいた。
テーブルの上に並ぶ、サンドイッチと珈琲には、まだ手がつけられていない。
「我々の望むところは、先にお伝えした通り、現環境の保護です」
ソウマは、端的に答える。
二人の姿は、大鳥島の常識を識るものからすれば、教員と学生が遅めの朝食をとっているようにしか視えない。
保護者と学生という判断が軽んじられるのは、大島学園は全寮制の教育機関であり、学生の家族の多くは島内に居住していないからである。
それはそれで、如何わしい感はあるが、とにかく、地球人類の代理人と地球外人類の使者が地球の行く末を巡り、
相互の理解を深めようとしているという真実を類推する者はいない。
「つまり、侵略も、接触も控えて欲しいということだったな。
貴公の要望は伝えるし、貴公が脅威であることも伝えると約束しよう。
だが、そういうことではない」
「と言いますと?」
「貴公が話しているのは帝国に望むことだ。
私に、クノスに望むことはないのか?」
首を傾げてみせたソウマに、クノスは怪しく微笑んでみせる。
「そうですね。私を信じてください」
「なんとも、気が効いた言葉だ。
壮大で、漠然として、遠慮がない。
呆れるしかない。
だが、叶えよう。そも、言われるまでもない。
貴公を信じねば、私にも、帝国にも未来はない」
「我ながら、卑怯な言葉を選んだものだと、省みていますよ。
ですが、訂正はしませんので、ご安心を」
ソウマは、涼しい顔をしながら、心の中でため息をついた。
この会話を間違いなく聞いているであろう誰かの冷たい視線を背中に感じていた。
「私からも一つ、貴公に望むことがある」
「私に叶えられることであれば」
「そうだな、クノスと呼んでいいぞ」
クノスは、願わず、許可した。
「では、私のことも、ソウマとお呼びください」
「いいだろう、ソウマ」
クノスは、名を呼ぶと、視線を逸らすために珈琲に口をつけた。
「少し苦いな」
「砂糖とミルクをどうぞ」
「これか、なるほど」
クノスは、角砂糖を一粒、ミルクを一回ししてから、珈琲に再挑戦すると、それから、角砂糖をもう一粒追加した。
甘すぎるくらいの感覚が求めるものだった。




