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闇の中、ただ、魅入られるように、瞰視していた。永遠の夜に燦然としてある青い惑星の光は、あまりにも美しく、彼方へと手を伸ばす。自身の起源がそこにあることが、誇らしく感じられた。
怖ろしくはない。だだ、寂しかった。
孤独。
人は生まれ、死ぬ。土へと還り、糧となり、長い時を経て、また生を受ける。
だが、私は、もう還ることはできない。
だが、私は、もう帰ることはできない。
ただ、私は、死ぬことすらできず、たた終わる。
惑星の循環から外れてしまった。
遥か彼方。私は、地球の引力の外にあった。母なる惑星との約束は断たれ、ただ、永遠に闇を彷徨い続ける。いつか、どこかへと、辿りつくことを祈りながら。
月を探す。自身が辿りつく筈だった場所を縋るように求めた。
アポロ計画から一世紀、人類は再び月を目指した。先進国会議は、月資源の確保を最終目標とした月面開発計画を妥結し、その尖兵として調査団を地球から打ち上げた。
全ては順調だった。数時間前までは。
何者かが求め、画策した結果であったかは解らない。地球の引力を振り払い、月へと向かう旅の半ばで、軌道船は爆散した。
衝撃と閃光。
宇宙に投げ出されながら、映画のような一瞬を観ていた。間もなく、意識は失われ、意識を取り戻した時には、宇宙を漂流していた。船外作業訓練のため、宇宙服を着ていた偶然が生命を永らえさせた。だが、それも間もなく終わる。酸素は失われていく。
視界は巡る。平衡感覚は既に失われている。そも、この世界には、方向という概念は存在しない。ここには何もない。時間も、空間もない。ただ虚無がある。
何故、人類は、こんな世界に夢を視るのだろうか?
何故、自分は、こんな場所を目指したのだろうか?
いつも宇宙を仰ぎ視ていた。
私は、何を視ていたのだろうか?
自問するが答えはない。
ふと、視界の片隅に何かが過ぎった。限られた酸素を使って、身体を動かし、その幻影を追う。
何もありはしない。期待などしていない。わかっていた。ヘルメットの中に漂う埃が、そこに何かがあるように錯覚させた。それだけだ。それが私の答えだった。ただ他に、やるべきことはなく、できることもなかった。だから、
「 」
言葉はない。呼吸することさえも忘れた。ただ考えは否定されていた。
何もない筈の虚無に何かがあった。視えない何かがあった。
凝視する。透過された面は水鏡のように宇宙の闇と星々の光を映し、どこまでも吸い込まれそうだった。ただ微かに光が歪む輪郭から、その全影を推し測る。
宇宙を仰ぐように視た。
放射状に放たれた流線が集い一点へと収束する巨大な錐体構造。
鼓動が強くなる。
突如、赤い光が視界を染めた。一瞬の眩しさが過ぎ去り、数瞬の間を経て、鏡面は先端から崩れるように解かれはじめた。何かが実体を現していく。
背が震えた。白銀の光に眩みながらも凝視した。
それは、ただそこに佇んでいた。それを何と形容すべきか、迷うことはなかった。知らず確信していた。
そこには白銀の船の姿があった。
私は、何を視ていたのだろうか?
手のひらを握りしめていた。
言うまでもない。
答えはそこにあった。
私は、宇宙に未だ知らぬ夢を視ていた。




