17
「そろそろ終わりにしましょうか」
ソウマは、一方的に言い放つ。
巨人と人。
対峙する者達。
そこには絶望的なまでの体躯の差があり、愚かしいとさえ感じさせる光景だった。
だが、圧倒的優位に立つのは巨人ではなかった。
「まだ、終わってはいない」
「ええ、わかっています」
クノスが駆る天狼弓は、左腕の自由を奪われてはいたが、戦闘不能とは程遠い状態にあった。
戦闘を続けた結果、一方的に破壊されていくことは既に自明であり、クノスも理解している。
だが、それでも、クノスは、まだ、終われない。
ソウマの力を審判してはいない。
未来を託すに値する存在であることを証明していない。
故に、終われなかった。
「ですので――」
ソウマは、理解していた。
だから、頷き、そして、告げた。
「少しだけ本気を出します」
ソウマは、斧槍を突き刺すと、手首を返して右の手を、そっと開いた。
零れ落ちる何かを受ける盃のように。
いつからそこにあったのだろうか?
連続する時間と空間の中に、差し込まれるように、それは顕れていた。
ふらりと、ゆらりと、手のひらの上には銀色の球体が浮遊していた。
「それが貴公の武装というわけか、余計な気遣いだったか」
「いえ、助かりました。白兵戦をすることで、私の性能を示すことができましたから」
ソウマは、クノスを感心させることができた。
それは今後を考えると無意味ではない。
「ですが、まだ脅威と認めさせるには至っていない」
「然り、この程度では、話にならん」
言うまでもなく、強がりだが、言葉に嘘はない。
「ですので、証明として、行使します」
「お受けしよう」
クノスは、その意志を示すように槍を構える。
だが、唇はわずかに震えていた。
銀色の球体が如何なるものかはわからない。
間違いなく、危険なものであると、直感は告げていた。
それが何かわからない。
だからこそ、恐ろしい。
背を向け、逃げ出すべきであることは、わかっている。
それでも、奥歯を噛み、怯えを殺し、信じた。
「動かないで下さい」
ソウマは告げ、弓に矢をつがえるように構えた。
銀色の球体の表面が艶めかしく揺れる。
圧延されるように真球は楕円球へと姿を変え、さらに錐状へと形を変えていく。
それは、極めて単純な兵器であった。
銀色の不定形は、超高密度の液体金属である。
高度な斥力制御により、形状を操り、投射する。
古来の戦争で活躍した投槍と多くは変わらない。
極めて単純な兵器である。
「征け」
言の葉と共に、それは放たれた。
超大な質量の投射。
閃光。世界が白に霞む。
全てが圧され、音さえ消し去られた。
一瞬だった。
銀の刃は、空を穿ち、宇宙へと消えた。
ただ、揺れる草が、軋む木が余韻を伝え、失われたものが、その軌道を告げる。
一瞬で終わっていた。
巨人の右手は、槍と共に、地に刺さり。
そして、肩から腕にかけては、完全に失われていた。
胴体部分に大きな被害はない。
ただ、肩につながる胸の装甲には、象られたかのように美しい円状の傷痕が残されていた。
抉られていた。
「認めよう。貴公は証明した。礼を言うぞ」
クノスは告げた。
そして、未来に夢を視た。
頬には、一筋の涙が零れていた。
「――ありがとう」