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クノスが駆る巨人、それは帝国において、概して"機動装甲"と呼称される。
宇宙空間での行動を補助するための人型機械であり、装備を変更することで様々な用途に幅広く対応する。
クノスに与えられた"天狼弓"は、戦闘に特化した主力機種を改修した特別機であり、
軌道上からの強行突入を備えると共に、重力下での戦闘を想定した調整が施されている。
つまり、帝国の最新鋭技術によって製造された、地球上における最強最良の兵装であった。
クノスが機動装甲の騎手として、一流であることは言うまでもない。
惑星の重力下での戦闘経験は豊富とは言えないが、その動きは鋭く、我が身の如く巨大な四肢を操っている。
故に、一騎打ちにおいて、天狼弓とクノスが膝を折ることは、様々な意味で帝国の敗北を証明する。
斧槍の穂先から跳んだソウマは、試しにと脇の関節を狙い、打ち込む。
金属音が響き、火花が散る。
衝撃は巨体を揺さぶる。
だが、それだけだ。破壊には至らない。
「硬いな。急所は?」
「回答:操縦席です」
ソラは、端的に答えた。
「なら、削るしかないか」
「武装の変更を提案します」
クノスの斧槍で戦闘を継続するのは、効率的ではない。
ソラは、そう伝えていた。
「この斧槍で倒してみせろと、そういうことかもしれないだろう?」
クノスは、ソウマを慮って、斧槍を渡した。
それ以上の意図はない。だが、結果として、縛りとして機能していた。
「それに――」
薙ぎ払うように打ち下ろされる質量。
ソウマは、懐に踏み込むようにして躱し、勢いのまま右腕を振り抜く。
狙いは、斧槍を握り支える一点。
「その必要もない」
鋼鉄の指が舞った。
墜落し、暴れ、現代芸術のように鎮座した。
指先の機構が複雑化し脆くなるのは、人型であるが故の宿命である。
さらに、ソウマは、攻撃の瞬間に合わせた。
対峙する相手の質量と力を利用するためである。
正に絶技。
余りに精密で、余りに自然で、余りにも優雅だった。
小指は刎ねられ、薬指はひしゃげた。
生身であれば、激痛にうめき、地に崩れていただろう。
だが、相手は機械である。終わりではない。
クノスに動揺がなかったとは言えない。
だが、戦意を挫く程ではなかった。
ソウマは、誇ることなく、傲ることなく。
既に、動いていた。跳んでいた。
クノスは、頭部に迫る、ソウマの姿を捉え、咄嗟に反応してしまう。
あと数秒の時間があれば、状況を整理し、立て直せていた。
この判断はなかった。
振り払おうと、放たれる腕。
それは速いだけの条件反射と称してもいい無意識の動作だった。
それ故に、自然で読みやすい。
ソウマは、造作もなく合わせて、手首の関節に打ち込む。
指先とは強度が違う。
破壊には至らない。
だが、軋み、歪めば、可動に支障をきたす。
左腕は半ば死んでいた。