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斧槍が交錯する。
一人と一機。共に得物は斧槍である。
だが、言うまでもなく、同列に語るべきものではない。
体積、質量、そして、威力は、余りに違いすぎた。
全てを終わらせるはずの強襲。
だが、そうはならない。
ソウマは、振り下ろされた一撃を流れるように捌いてみせる。
斧槍は軌道をずらされ、暴れ、抉り、地面に爪痕を残す。
「すばらしいな」
クノスは、感嘆しながらも、追撃の手を緩めない。
二手三手と打ち込むことで、ソウマを動かし、隙を覗う。
そこには奇妙な信頼があった。
故に、躊躇いはなく、容赦もない。
クノスが重量級の斧槍を竹刀の如く自在に操ることができたのは、
帝国の科学技術によって創り出された強化外装が身体能力を補強していたからである。
一方で、ソウマが何かを身に着けている様子はなく、事実、服装は特別なものではない。
一般的な縫製品である。
日中と変わらぬ姿であり、手や胸元は肌が露出している。
およそ、戦闘に適当であるとは言えない姿である。
だが、ソウマはクノスと同様に、いや、それ以上に鋭く斧槍を操り、機械の巨人の攻撃を凌いでいる。
「地球人類の身体能力が優れているというわけではなかろう?」
「どうでしょうか、中にはいるかもしれません」
ソウマは、軽口を叩きながら、舞い踊る。
頭上から降り注ぐ、鉄塊を躱し、流し、捌く。
その姿は、流麗で淀みない。
激流を漂う木の葉を連想させた。
「未来が視えるのか?」
「初動からの予測です。機械は軌道を把握しやすい」
横薙ぎからの打ち下ろし。
巨大な斧槍が振り下ろされ、混凝土を抉り、礫を跳ね上げる。
一欠片であっても触れれば、終わる。
だが、何れも、ソウマを捉えてはいない。
紙一重で躱している。
白い砂塵を払うように、ソウマは跳び、ふわりと斧槍の穂先に止まる。
「さて、そろそろ、こちらからもいかせて頂きましょう」
「よかろう」
「帝国の脅威として、認識して頂くためにも、容赦せず、破壊します。
舌を噛まないように、気を付けてください」
クノスは、奥歯を甘く噛み、身構える。
敵わないことは知っている。
だが、どこまで敵わないか、それを識るために、クノスは抗う。
願いを叶えるために。