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「貴公の実力は判った。今の私では逆立ちしても敵わないだろう」
クノスは強い。
だからこそ、わかる。
実力の差は歴然であると、あらゆる感覚が告げていた。
敗北の記憶が想起される。
負の感情はない。
畏敬と尊崇、そして、嫉妬。
かつて、帝国最強を謳われる者と相対し、膝をついた時の体験に似ていた。
「では、これで終わりでしょうか?」
「いや、これからだ」
クノスは敗北を認めていた。
だが、それは武芸を嗜むものとして、個の敗北を認めるものでしかない。
「今の私では逆立ちしても敵わない。
私はそう言った。確信がある。
貴公は達人と呼んで然るべき使い手なのだろう。
だが、それだけでは足りていない」
「ふむ?」
「私が二人いたら、どうだろうか?
いや、貴公なら勝つだろうな。
では、三人なら、十人なら、或いは、百人なら、どうだ? 勝てるか?」
「ええ、勝ってみせましょう」
「その意気やよし、では証明してもらおう」
「なるほど、何をしたいのか、何をして欲しいのか、解ってきました」
未知の文明の邂逅は武力の衝突から始まる。
互いの力を識ることで、幾つかの選択肢が生まれ未来が分岐する。
共存か、支配か、或いは、広大な宇宙を舞台とするなら逃避という選択もあるだろう。
帝国は既に裁決していた。
クノスが地球に降りたのは、選択のためではない。
最終的な確認に過ぎず、それは手続き以上の意味はなかった。
地球人類は、帝国にとって、侮るまでもない相手であった。
だが、クノスは、そうではなかった。
「私は貴公の武力を識るために推参した。
それは間違いではなかった。嬉しく思う。
甚だ実力不足で心苦しいが、どうか最後までお付き合いを頂きたい」
クノスは告げると、手にしていた斧槍を軽く放り投げる。
弧を描き、ソウマの足元に突き刺さった。
「餞別だ。使え」
「――」
「警告:間もなく、到達します」
ソウマの声を遮るように、ソラが警告を伝える。
瞬間、風圧が木々を、いや、庭園全体を揺らした。
だが、衝撃も破壊もない。
空から、いや、宇宙から、それは投射され、地表へと至り、そして、静止した。
音もなく、そこにあった。
舞い降りていた。
灰色の外装、鋭角な輪郭。青い瞳。
巨大な人型がそこにはいた。
「強化外骨格と呼ぶには、大きすぎるか、これは――」
ソウマは告げ、口元を醜く歪めた。
「都合がいい」




