12
それは地球の未来を決める戦いだった。
だが、この惑星の支配者として、連綿と歴史を紡いできた地球人類の姿は、この場にはない。
「いくぞ」
弓から放たれた矢のようだった。
クノスは跳び、ソウマとの間合いは、一瞬で失われた。
交錯する視線。圧縮された時間。音のない世界。
そして、はじまる。
穢れのない暴力。
ソウマを袈裟斬りにしようと、凶器が振り下ろされる。
細腕が軽々と操るそれは軽くない。
重力の下で武器とするには現実的ではない質量を有している。
地球人類の強度であれば、触れるだけで致命傷を免れない一撃。
ソウマは、それを顔色一つ変えることなく躱した。
二撃、三撃。
返す刀、順手から逆手。舞うように放たれる死の旋風。
研鑽に裏打ちされた鋭利な刃。だが、空を切る。
クノスは、帝国の若手士官の中でも、抜きん出た存在であり、だからこそ、この任務に選ばれている。
戦闘、特に、白兵戦においても、高い評価を得ており、クノスを圧倒できる使い手は、帝国にも数えるほどだ。
言うまでもなく、手を抜いてはいない。
握りを返し、柄を打ち上げる。
死角を衝いた一線。
放った瞬間に射抜いたと確信できるほどの威力。
だが、手応えはない。
クノスは、後ろに跳び、構えを解いてみせる。
「見事だ。だが、返さないのか?」
「疲れてからのほうが、話が進めやすいかと――」
ソウマの軽口に返されたのは威であった。
クノスは、腰に携行していた武器を振り抜き、撃ち放つ。
手に握られた正方形状のそれは、地球人類が拳銃と称するものに類似する機能を有している。
「あまり侮ってくれるなよ?」
一連の動作に、躊躇いはなく、初動から完結まで、瞬く間もなかった。
だが、それでも届いてはいない。
放たれた光の刃は、ソウマの眼前で破裂し四散していた。
「光学兵器は概ね無効化できます」
「これはどうだ?」
次いで、クノスは超振動ダーツを投擲する。
だが、これも軽々と振り払われる。
弾かれた刃は吸い込まれるように地面に突き刺さった。
「速度が足りません。軌道予測で対応可能です」
クノスの表情に驚きはない。
牽制ですらない、ただの小手調べである。
「ご期待に添えていますか?」
「そうだな、期待通りではある」
クノスは、奥歯を噛み、握る手に力を込める。
求めるのは期待以上の力であった。