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「これから、時間を頂きたい」
携帯端末に届いたメッセージを確認し、ソウマは、困ったように口元を歪めた。
「この時間にお誘いを頂けるとは、積極的ですね。いや、全く想定外ではありませんが」
「確認:どうなさいますか?」
凛とした、だが、どこか幼さを残す声がソウマに問う。
姿はなく、音もない。
遠方からの通話ではあるが、機械の端末を介したものではない。
声は、ソウマの頭に直接語りかけていた。
それは先進的な科学技術によって再現される事象であり、異能と称される超自然現象とは対局のものである。
「用件はなんでしょうね。ソラはどう考えますか?」
ソウマは、少女の問いかけに問いで返す。
「回答:判断材料が少ないため、予測は困難です」
少女は、ソウマの問いかけに答えを返す。
それが少女に、ソラと名付けられた生体端末に求められた機能であった。
「上の様子は?」
「回答:木星外縁に位置する帝国艦隊に動きはありません」
答えと共に、ソウマの視界に帝国艦隊を模した立体映像が投影される。
それは精緻に映された現在の現実である。
「威風堂々といった様子だな。地球人類とは科学技術が違いすぎる」
「帝国艦隊による交戦権の行使を仮定すると、地球圏到達から一時間以内に地球人類の主要都市は全て消失すると予測されます」
「となれば、誘いを断るわけにはいかないか。藁にも縋るとはこのことだ」
ソウマは、携帯端末を取り出し、音声入力を起動する。
「わかりました。そちらに向かいます」
ソウマが言葉を送ると、間もなく、クノスからメッセージが返ってきた。
それから、ソウマとクノスは、何往復かやりとりを行い。
時間と場所が決まった。
「賢明で、行動力もある。おかげで話が早い」
「確認:判断材料を得ました。予測をお聞きしますか?」
「今夜、何がしたいかは、言うまでもないだろう。
暗にこちらに伝えてきている。
だが、最終的にどうしたいかはわからない」
「確認:現在の方針をお聞きしておいて、よろしいですか?」
「彼女にわかってもらう」
「手の内をさらすのですね」
「そう言えなくはない」
「クノスの理解を得たとして、帝国が理解するでしょうか?」
「クノスの理解を得なければ、帝国も理解しないさ」
「クノスに期待しているのですね」
「我々は少数で、彼我の戦力差は圧倒的だ。どうにかうまくやらなければならない。
仲間は多いに越したことはない。
でなければ――」
「警告:島の南海上を移動していた小型宇宙船から物体が投射されました」
「攻撃か?」
ソウマは、眉をひそめるようにして、情報を確認する。
島の全景。小型宇宙船の座標。投射された物体の軌道予測。
視界に展開されていた映像が切り替わり、それらが瞬時に表示される。
「弾道、速度、質量から、脅威とは認識できません。
落下予測地点は郊外の森です。
クノスの進行方向であることから、回収してから合流するものと予測されます」
「手土産ということか、骨が折れそうだ」




