閑話 赤羽先輩と友田君
なぜこんな事になった・・・
俺は問題が書いてあるプリントを見ながら、俺は分からない問題に頭を抱えていた。
プリントの問題じゃない。俺が勉強しているって問題にだ!
俺の名前は赤羽恭弥って言う。
まあ、自慢じゃねえが地元や周りには名の知れた不良ってもんだ。
気合の入ったリーゼントがトレードマーク。
大抵の奴は俺を見たら謝ってきやがるし、高校生だろうが俺の名前でビビりやがる。
ネームバリューってヤツだな!
そんな無敵の俺がなぜか今机に座って勉強してるんだ?
それは目の前に座るコイツ、友田遊人が係っている。
◇◇◇
俺の話をしよう。
俺がぐれた理由は親の離婚。
どこにでもありそうな理由だ。
冷たい家。暗い部屋。親の罵声。泣く妹。出ていく親父。すべてが嫌になり、俺は、家に寄り付かなくなった。
後は分かるだろ?
お決まりのアウトローコース。
もちろん学校にも行かない、そんな俺が頭がいいわけはない。
たまに行くと、担任の数学教師が文句を言う。
もうすぐ卒業の俺は、先輩の知り合いの仕事場に就職するかなんて考えてた。
そんな時俺は出会った、友田遊人に。
今でも思い出す。最初に会ったアイツの目は、はっきり言って死んでいた。それがやけに目についた。
まるでオレノカゾクをみているようで
「てめー何メンチきってんだ?」
「あーん?」何て、今でも思い出すと恥ずかしい。
だが、アイツの目は何も写してなかった。
「・・・先輩なんか見てませんよ」
この一言で俺はキレて殴りかかった。
殴りかかった俺を、友田は冷静にいなし。避ける。
避けられたことで更にムカついた、俺は蹴りを入れるフリをし、同時に足元の砂利を蹴り上げた。目をかばった友田に右拳を頬にぶち込む。
「どうだ!わかったか!」今思い出しても、何でこんなセリフを言ったのか。
大抵の奴はこれで泣くか、怒りに顔を染める。だがアイツ、友田は笑った。
あ?笑った顔と闘志を写す目。もう死んだ目はしていなかった。
友田の顔に驚いてる俺に、友田は殴られた場所と同じ場所に拳をぶち込んだ。
今思い出してもおかしい、最近まで小学生だったガキの拳じゃない。
「くそが!」その後はガキのケンカお互いに殴り合う
「「はぁ・・・はぁ・・・」」
お互い息も絶え絶えで倒れたように地面に寝そべっている。そんな姿に可笑しくなって、「まるで漫画のようだな」と思いお互いに笑いあった。
そして俺たちは、河原の近くで黄昏ていた。夕焼けがそうさせたのか。
俺は自分の家族の事を話していた。
さっき会ったばかりの二歳年下のガキに、自分の話しをしていた。友田は黙ってそれを聞いていた。
そして友田も自分の事を話してた。権じいって言うじーさんの話を。そのじーさんの死が友田には応えたらしい。そのじーさんと違い、自分は空っぽだと。比べてしまうと・・・
だけどよ友田・・・そいつは違う、殴り合った俺には、違うと言える。
「あー、友田、てめーの拳はいてえ!、・・・俺が殴り合ってきた奴らと違って重てえ!・・・あーだからよう、おめの教えられたことは、こうおめえの中にあるんじゃねえか?・・・だからこう・・・あー!!上手く言えねえ!!!」
でけど友田は数秒目を瞑り「はい!」といい笑顔で返事をした。俺が言いたいことが伝わったのかは分からないが、友田の中で答えは出たのかもしれない。もう最初に会ったような目はしてなかった。
「じゃあ先輩、行きましょうか!」
は?どこへ?
学校に到着すると友田は三年の学年主任と話し合った。どうやら知り合いらしい、「兄弟子です」っていってやがった。あのタヌキが?
空き教室に着くと、俺を椅子に座らせてプリントを渡した。
そして物語は冒頭へ戻る
◇◇◇
そうか、殴り合ったから俺はここにいるのか。
・・・で、なんで俺は勉強してるんだ?
「先輩そこ違いますよ」「おおっ」
友田に指導されるままに勉強していた・・・
分からん!?
それに勉強をしてこなかったからか、問題を見てると気持ちばかりあせって来る。
「先輩落ち着いてください、問題は殴りかかってきませんよ」
あ?そんなの当り前じゃねえか?
「ですから先輩の殴り放題ですね」
・・・はぁ?
殴り放題ってサンドバックみたいなもんか?
・・・ああ、そうか、ゆっくりやれと言いたいのか。
自分でも単純だと思うが、そんな言葉で気が楽になってしまった。
問題を一問一問ゆっくり解いていった。
分からない問題は友田に聞く、そうすると友田は分かりやすく、噛み砕いて説明してくれる。分かるようになるまで何度でも。
そんな日が続く中友田が俺に「休憩中に読んでくださいと」料理本を渡してきた。
あ?なぜ?
漢字にルビが降ってあるから読みやすいだろうとの事。
・・・そうかと、受け取っていた。
友田の突然の奇行は今に始まった事ではない。
俺は料理本を読んでると、無性に書いてある料理が食べたくなり家で作ってみることにした。
「なんだ100ccって?小さじ?大さじ?・・・分からん」
感覚で作ってみたが思っていた以上に多くなった
・・・誰か食うだろうと思ったら妹が見ていた。
「来い」「・・・」「食え」「・・・うん」
今まで接触のなかった妹との会話なんてこんなもの、二人で同じ飯を食う。
マズッ!?ひどい顔をしてる妹に俺は「食べなくてもいい」と言ったら「・・・食べる」と返してきた。今日は妹とまずい飯を食った。
そんな悪くない・・・
友田に出会ってから
夢の中にいるようなふわふわした日が続く
喧嘩もせず
放課後残り
勉強し
まっすぐ家に帰り
お袋と妹にマズイ飯つくり
風呂に入る
そして寝る
それの繰り返し
繰り返しの毎日
そんなある日
いつものように風呂に入り
鏡を見たとき気づいた
いや気づいていた
気づきたくなかった
友田と出会ったときには本当は気づいていた。
「空っぽなのは俺じゃねえか・・・」
そこには空虚な瞳の男が鏡に写っていた。
友田伝説①
下剋上伝説:中学の番長と呼ばれている男を中学一年の時撃破。
空き教室に連れ込みあれやこれやと洗脳したもよう。
その後、学校を裏から掌握したと思われる。
by新聞部