第05話 敵の好感度を叩け!
よっ!ほっ!とっ!
朝の筋トレが終わり、俺は体を伸ばしストレッチをする。
そして、次にランニングである。
「行くぞ。」
俺は妹に声をかける。
今日の妹は髪を横で縛るサイドポニーのような髪型だ。
「はい、兄さん。」
俺は妹の千佳と、ジャージ姿で家から走り出す。
なぜ妹と走っているかと言うと。
答えは勝手に妹が付いて来ているからである。
この朝の筋トレを始めたきっかけは、確かに妹なんだが俺は最初勉強だけを教えようとしていた。
◇◇◇
十年前、妹と公園で遊んでいる時に妹が遊具から落ち、それを助けようと俺はケガをした。俺はそこで前世の記憶を思い出した。この世界がゲームである事。俺が主人公のサポートキャラである事。そして、妹がヒロインである事とEDの後に妹が≪大学受験に失敗し家事手伝い≫になる事を。
兄として妹を分かった上で無職にする訳にはいかない。どうにかしなければと思い勉強を教える事にした。
しかし、前世でも何かを教えたことがない俺には人に教えるという意味を理解してなかった。
難航に次ぐ難航、この世は正に大海賊時代!あ、いらないこういうの。
そんな訳で俺は誰かに教えるには、まず俺が誰かに教わらなければならないと思った。
最初に思いついたのが学校の先生だが。流石に仕事の邪魔までして教わるには悪いと思い、相談するだけにした。そして紹介されたのが先生の先生、権じいである。
権じいは生まれた時からこの街に住んでいて様々生徒を教えていった。
正にゴットティーチャー。
そんな権じいに、教えを乞う為に俺は妹と、権じいのもとへ向かった。
「俺を弟子にして下さい!」
開口一番土下座である。土下座に勝る挨拶はない。
「えっ?いいよ」
あっさり弟子に慣れた。
後から聞いた話では、流石の権じいも引いたらしい。
小学生の子供と、幼稚園の子供が、やるべき事ではなかった。反省。
権じいが千佳の勉強を見て。権じいが教えてる姿を俺が見て学ぶ。
正に門前の小僧、習わぬ経を読む。
そんな権じいが俺に教えるのは、勉強の教え方だけではなかった。
茶飲み話で聞かされる権じいの体験。
そして権じいを慕って集まってくる、権じいの友人達の言葉。
そこで俺は、様々な人々と交流できた。
だが、そんな楽しい時間も終わりは来る。
俺が中学に上がる前の最後の年、権じいが倒れた。
病気ではない、老衰だ。
権じいの家には、権じいを慕う人。権じいの元教え子。俺に権じいを紹介した先生もいた。権じいには血の繋がった家族はいない。奥さんは、子供を産む前に亡くなったようだ。だからこそ権じいは、繋がりを大切にした。
だから権じいは、俺たちを家族と呼んだ。
そして俺と千佳を最後の子供と言ってくれた・・・
権じいは最後に一言。
「我が生涯に一片の悔いなし」
なんて笑い話のような事を。
でも本当に後悔もない。
いい笑顔で、眠るように息を引き取った。
俺はそんな権じいがうらやましかった。俺はどうだっただろうか?
前世では泣いてくれた人はいたのだろうか?
こんないい笑顔で逝けただろか?
権じいの生きた道こそ、本当に俺の学ぶべき事なのかもしれない・・・
◇◇◇
権じいの事を思い出したら泣けてきた。いやこれは汗だ、目からあふれる心の汗だ!
え?ランニングの理由?
ああ、権じいの友達が、最近運動不足って言ってたから、近くにあるトレーニングジムに行って、老人でも無理なくできる運動。ってのをジムのおっちゃんに、相談して作ってもらった。
そしたら、場所がねえって事で。
だったら作ろうって事に、老人会でなりましたとさ。ノリって怖い。
それでジムのおっちゃんに気に入られて筋トレすることにしたんだが。なぜか妹までやっている。
ね?最初に言ったでしょ。
そしてここ最近は、体が出来てきたのか距離を走っても、そんなに疲れないな。そろそろまた、ジムのおっちゃんに相談するかな。って考えてたら商店街に差し掛かった。
「遊人、千佳、おはよう」
「ああ、おはよう結」
「結さんおはよう」
縁結この商店街の定食屋≪縁≫の看板娘(笑)である
「はい、これ」
俺たちにコップを渡し、店で出す麦茶を注いでくれた。
「サンキュー」
「ありがとう結さん」
「あなた達、毎度よく走るわねー」
「それは、そこに道があるからな!」
「ダイエットになりますよ」
「えっ、そう?私もやろうかしら・・・」
はい、俺の決め顔とセリフスルー・・・キメエ顔だったかしら?
スルーされてる間に説明しよう。
結は俺の幼馴染であり、そしてこの縁結はゲームのヒロインの一人だ。
俺を介して主人公と出会う、赤い髪のセミロングの女の子だ。
だが今は黒髪で、ツインテールのように横で結んでいる。
この後染めるのかしら赤に?
ぐれるの結?
「っで遊人、私に何か言うことはない?」
ん?なんだ?七色学園の制服を着た結が、腰に手を合ってドヤ顔で言ってきた。
・・・なんだろう?俺にとっては結の七色の制服はデフォだし・・・
「コスプレ?」
「違うわよ!!」
まあ分かってますよ。結のがんばりは。
裕福ではない定食屋の娘が、私立入るのは特待生制度を狙うしかない。(それでも他の私立よりは安い)
そんな結の頑張りを俺は知っている。
「おめでとう、頑張ったな。」
俺は結の頭に手お置いて、よしよしと子供にやるように撫でる。
「・・・」
何か言おうとした結も、撫でられると昔から黙りだす。たぶん頭頂部に黙るスイッチがあるのだろう。目覚ましみたいに。俺は面白くなりだして、そのまま撫でていると背後から殺気がした。
「・・・に・い・さ・ん・・・」
妹が堕天してました
何この殺気!
殺意!?
殺意の波動!!?
「・・・そろそろ時間ですよ」
我が妹(堕天使)は顎を上げ見下すように俺を見ていた。
完璧なシャフ度である。
俺の人生がもうすぐ終わり物語になりそうだ。
「じゃあ、結また学校でな。」
「うん、またね・・・」
俺が手を放すと何故か名残惜しそうな顔をしていた。
俺の手から出てますか?癒しパワー。
「兄さん、行きますよ。」
「はい、はい。」
またランニングを始めた俺たちは、商店街の知り合いや。朝練の中学校の後輩に挨拶をしながら、家路へと急いだ。
さて今日も一日が始まるな。
(妹が)敵(と認識した相手)の好感度を叩け!
キャラ設定
縁結
ゲーム設定:定食屋≪縁≫の看板娘(笑)
家の手伝いばかりしていたので成績が悪く公立に落ち、私立の中でも比較的安い七色に入った。
友人Aとは腐れ縁で、昔からの知り合い、それが学園に入ってからも続いた。
そして友人Aを介して主人公と出会い、父親のような主人公の心の広さに惚れる。
つまりおっさんスキー
パラレル:遊人とは小学校から中学卒業までクラスが一緒。
最初はただの幼馴染だったが、遊人の広い心(中身おっさん)的な部分に引かれる。
やはり成績はあまり良くなかったが、遊人の伝説(笑)の一つ、あいつのクラスになると何故か成績上がる(単純にクラスの勉強を見ていた)三年間当たり見事七色特待生になる。
おっさんスキーと言うより老人スキーになりだした昨今。