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  作者: 死猫ノアンネ
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一章




 招待状、と書かれた黒鶴が夜空を舞う。厳密に言えば、鶴に折られた便箋が届け先まで低飛空していた。時折、まぶされた金箔が灯篭の灯りを受けて光る。黒鶴は古風な街並みを越え、外れに建っている神社へと向かった。暗い中でも目に焼き付きそうな朱塗りの門。飛び越えようと黒鶴は高く舞い上がり……耳障りな音と共に破け散った。


「其方の結界は誠に容赦がないな。塵々だ」


 感情の籠ってない…しかし無理矢理抑揚をつけたような声が、便箋の欠片に近付いた。

「門を飛び越えるなど無礼にも程があります。まだ手緩い方かと」

 続いて巫女服を纏った乙女が歩み寄り、紙屑を拾い上げる。しばし眺め、ひっくり返し、そしてまた眺めると、小さく鼻を鳴らした。

「貴族風情が下手に魔法を使うなど…しかも西洋式ですね。恋文であればこのまま落ち葉と共に掃き集めて

しまいますが……」

「そうはせんのが、其方の情け深き短所よなぁ」

 くっくっく…と笑う声に女は眉を顰め、残りの紙片を拾い集める。

「恋文であったなら、火にくべています」

 しっかり声に反撃してから、手のひらに乗せた紙片に息を吹きかけた。すると微かに何かの囁きが聞こえ、何処からともなくふいた風に紙片は巻き上げられて飛んだ。女が見守る中、それは癒着を始め一枚の便箋になった。女が更に指を鳴らすと、ぱたぱたと折れてゆきやがて……黒鶴が出来上がった。

「……行け」

 黒鶴は何事もなかったかのように夜空へ飛び出した。心持ち前より生き生きと、誇らしく。

「見事だ」

 乙女は地面に置いていた箒を持ち神社へと向き直った。褒められたにもかかわらずその表情は芳しくない。

「光栄です。が、私がかけたのは復元の術のみ。何かしましたね」「…はて、なんのことだかな」

 これ程わざとらしいしらばくれ方も無いと言える。それくらいその言葉は不気味な抑揚を孕んでいた。乙女は溜息を吐き、虚空(一応顔の向きから察するに神社)を睨んだ。

「封じられている状態でそんな器用なことが出来るならば、封を解くこともできるでしょう。何故縛りつけられている状態に甘んじているのですか」

「それは……」

 その時、木々の葉を攫って楽器でも奏でるように風が吹き抜けていった。

「…ごめんなさい、よく聞こえませんでした。もう一度……」

「では、今は話す時では無い…ということだな」

 不思議と有無を言わせない迫力に乙女が口を噤むと、それ以上声が響くこともなくなった。乙女は小さく息を吐き出すと、箒をしまいに向かい…かけて振り返った。


「いつかは話すということですね………鬼」


 くっくっく…と笑い声が聞こえた気がした。


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