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Lost in sammer

作者:

ひとつめ





彼女が僕の前から居なくなって、二年…


今年もまた夏がやってくる


そう、あれは二年前の暑い夏の日の出来事だった…




僕は調べ物をしに、この街にある市立図書館に来ていた


目的の本を多量の蔵書の中から探す行為は、容易ではなく


僕は背の高い本棚から、足音を立てないように移動する


静謐な…図書館独特の空気が、僕をその様な行為へと誘う。


普段なら息が詰まる様な行動も、不思議と苦にはならなかった


僕にとって、図書館というフィールドは


受験勉強で疲れた体を癒すための、サナトリウムの様な所だったのだ


哲学書のある棚へ移動する最中、視界の隅に真っ赤なリボンがはためいた。


「きゃっ!?」


僕が尻餅をつくのと同時にその悲鳴は、僕の頭の上から降り注いだ。


目をやれば、大きな赤いリボンを手首に巻いた女性が、


丁度こちらと同じように、床に尻餅をついている。


「すいません、大丈夫ですか?」


僕は彼女に声を掛けると、立ち上がり手を差し出した。


一瞬の間、彼女はリボンを巻いた左腕を庇う様にして、右腕で僕の手を掴んだ。





帰り道で、僕は彼女に問うた


「あの、腕…大丈夫?」


僕が何を言ったのか解らない様子で、彼女は


「ん?」


と返す


「いや、さっきぶつかった時、庇う様に見えたから…怪我でもしたのかと思って…」


先刻彼女が、左腕では無く、右腕で僕の手を掴んだ事を思い浮かべた


「ああ…これ…このリボン、おまじないみたいな物で…怪我とかじゃないので、安心して下さい」


おまじない…女性というのは、いくつになってもそういうものを信じるモノだと


誰かが言っていたのを思い出す。


「そうですか…怪我が無いなら、良いんですけど…」


そうして道が二股になるところまで来ると、僕は抱えていた図書館の蔵書を彼女に手渡した


先ほど図書館で貸し出して貰ったのを、ここまで僕が持ってきたのだった


怪我をさせたかも知れないのだから、それは当然の義務である事のように思えた


「あ…ありがとう。それじゃあ、ここで」


彼女は僕から受け取った蔵書を抱えなおすと振り返って、


「あ…」


体勢を崩す


蔵書が斜めに崩れて地面に一冊、ばさりと落下した


僕は咄嗟に、倒れる彼女の左腕を掴もうと手を伸ばすが、間に合わず


僕が引いたのは彼女の腕に巻きつけてあった、


おまじないの、




真っ赤なリボンだった…。




しゅるり、と彼女の腕から解き放たれると、波打ち際をたゆたうクラゲの様に


空中に…サラリと、はためいた


どさ、と僕はまた地面に尻餅をついた、それは図書館の蔵書たちも例外ではなかったが


一人、彼女だけは違ったようで、何故か


そこには尻餅をついた僕と、図書館の蔵書たちだけが残されていた……




彼女が僕の前から居なくなって、二年…


今年もまた夏がやってくる…


あの、暑い夏が……。



超短編として以前サラっと書き上げたものです

現在書いているものとは全く関わりのない

ひと夏の不思議な体験、といった感じですが

この女の子はなんだったのか、また

少年は彼女をどう思ったのか、というところに

重点を置いて書いてあります

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