龍は天を得て、天は芯を掴む
「貴様!華琳様の真名を!」
「貴様の方こそ桃香様の真名を!」と春蘭と関羽が飛び出しそうになったが
「やめなさい春蘭!」
「愛紗ちゃん止めて!」
「「くっ!」」と止められた。
「ごめんなさいね、猪で」とため息をつく華琳と
「いえ、こちらこそ」と苦笑いをする劉備。
「それで、君はどこまで知っている?」と北郷が話すと劉備の目は険しくなった。
「曹操さんが私たちを倒して、天下統一を果たした所まで」
「所まで?」
「そのあと少ししてから私たちはまた、戦い始めたんです」
「華琳がそれを許したのか!?」と驚きを隠せない北郷。
「許したのではなく、曹操さんが始めたんです。私が訪ねたときに貴女はこう言いました」
【これは彼が戻るために必要な事。たったひとつの私の最後のわがまま。だから桃香、いいえ劉備・・・止めたいのであれば本気で私を殺しにきなさい】
「私が曹操さんと会話をしたのはそれが最後です」
「成る程(華琳が俺と別れたあと、華琳が狂乱した世界からやって来た劉備か)」
「だからこそ、私は引けません。あの世界を作ってしまう可能性のある貴女にはもう屈さない」と華琳を睨み付けた。
「だから今、私を殺す・・・なんて事はなさそうね」
「私は貴女を殺すのが目的ではありません。私の理想を今度こそ叶えるため。そして今度は貴女を屈服させる。それが私が望む天下泰平」
「ーーーくくく、あはははは」
「貴様!」とまたも飛び出しそうになる関羽だったが
「下がれ関羽!私に何度も恥をかかせないで」
「桃香様!?申し訳ありません」と再度下がった。
「何がおかしいんですか?」
「当たり前じゃない。天下泰平と言っておきながら、私を屈服させるですって・・・甘過ぎるわ」
「そんなことは、分かってます。その為には力が必要ということも。だからこそ、私には名声が必要なんです。この状況で貴女に手柄を譲るつもりはありません!」
「成る程ね・・・ならこの戦線は同盟ということでどう?それとも、私とは同盟するのも嫌かしら?」とニヤリと笑った。
「恩を売るつもりですか?」
「いいえ、ただ単に貴女に興味が出ただけよ」
「ーーーわかりました。どちらにしろ、今は黄巾の乱を収めるのが先ですから」
「なら、あとで私の陣に来なさい。策を教えてあげる」と華琳は振り返った。
「あぁ、いい忘れてたけど。私はあなたと同じ歴史を繰り返す者ではなく、その行程を知っている者よ。華琳と呼んだことは多目に見てあげるわ、桃香」と華琳は笑い劉備の陣を後にした。
「北郷さん」と劉備は続けて去ろうとする北郷を呼び止めた。
「ーーー君が言いたいのは、俺が華琳の下にいるとまた消える可能性があるってことだろ?」
「はい、ですから私のところに来てくれませんか?」
「ーーー悪いが無理だ。確かに君の理想は綺麗で自分の理想としたくなるものだ。だが、それは同時に甘すぎる蜜でもある。その蜜に群がる蝶には俺はなるつもりはないよ」と手をヒラヒラさせた。
「でも!」
「それに、俺は華琳の客将だ。華琳の下にいつまでもいるわけじゃない」
「北郷!?」とその言葉を聞いた春蘭が驚いた。
「悪いが春蘭、俺には確かめなければならない事ができた。この乱が終わったら、出ていくよ」
「ーーーそうか」
「すまないな」
「すまんと思ってるなら、必ず帰ってこい」
「善処するよ」と北郷は笑った。
「さて、俺たちも帰るぞ春蘭。華琳においてかれる」
「んっ!?ーーー待ってください華琳様!」と慌てて追いかける春蘭。
それを見て微笑んでいた北郷だった。
「私は、諦めませんから」と去り際に劉備はまた口を開いた。
「ーーーそうか、なら次は俺を屈服させるつもりで来い」と北郷が言うと決意したかのように劉備は力強く
「わかりました」と言い放った。
その言葉を聞いた北郷はニヤリと笑い、劉備の陣を去った。
そして一刻後華琳の陣にて軍議が開かれた。
「では、軍議を始める!」と華琳の号令の下に将が頭を下げた。
「ではまず此度の戦、義勇軍の劉備が我が軍に加勢する」と華琳が言うと、一同が末席にいた少女に一斉に顔を向けた。
「ご紹介に預かりました劉玄徳です。よろしくお願いします」とお辞儀をすると、他の者も一礼した。
「では北郷、策の詳細を」と隣に座っていた北郷に指示を促した。
「では、始めさせてもらう。此度の戦は濮陽城の攻略が主になる。その濮陽の城には現在3万の賊がいる。だがそれは虚報で、既に夏侯惇将軍により、廖化と陳宮、前回の投降兵五千が濮陽城に潜伏中だ」
「そんなにいるのか?」
「あぁ、元々我が軍に投降した賊がいるという情報は前もって消しておいたし、投降兵も先日投降したばかりの兵だから、相手の信憑性も上がるだろう」
「だが、離反する恐れがあるだろう?」
「陳留に家族を残している者しかいないから問題ないだろう。陳宮も同行させているから非常時の対策もできるはずだ」
「周倉の投降は?」
「完了済みだが、問題は濮陽城は既に周倉の物ではなく、程遠志の支配下にあるということだ」
「幽州を牛耳っている賊の頭目の名ね」
「あぁ、正規の軍より手強い相手だろう。だから、もう一手つける」
「もう一手?」
「陳宮に渡した袋には、2つの策をいれておいた。前者は内乱を装い混乱させ、敵に動揺が出たところで夏侯惇隊を突入させ、廖化隊と合流し、占拠を目的とするもの。もうひとつは同じく内乱をさせるが、敵大将を場外に出し、これを討ち取るもの。この策のうち、後者を選択することにした」
「それはなぜ?」
「まず場内にいる敵の数は、内乱を起こしたとしても二万五千もいる。我らはそれに対する半数だから、全軍で相手をする必要があるが、場内に全軍入ってしまえば万が一の場合を想定すると対処ができなくなる」
「ですが、混乱しているから全軍いれなくてもいいのでは?」
「確かにそう思うだろうが、相手は歴戦の将とほぼ変わらない。内乱だけでは軍を殺しきれないだろう。そして、前者では時間と兵の被害ががかかりすぎる。後者であれば狙うのは程遠志だけで済むからな」
「では、布陣は?」
「まずは混乱させ、城門を開けさせる。門が開いたら、夏侯惇隊、張飛隊で城内の敵を倒してくれ」
「任せておけ!」
「分かったのだ!けど、敵と味方をどう区別するのだ?」
「この青い布を首に巻き付けるように指示してある。だから、この布を首に巻いていないものを片っ端から倒していけばいい」
「了解なのだ!」
「次に、敵はこの陣の反対側の門から出てくる手はずだ。それを夏侯淵隊、関羽隊で待ち構えてもらう」
「承った」
「任されよう」
「次に、この陣から東側の城壁からの攻撃を劉備軍にお願いする。ただし城内に入らず、弓による攻撃と脱走兵を捕縛してくれ」
「わかりました」
「華琳はこのまま正面の門を、俺は西側から包囲を敷く」
「それで、決行は?」
「闇夜に紛れて・・・とするのが一番だが、五千の兵と周倉の安全が確保できない。ましてや青い布を確認できなきゃ意味ないからな、明日の明朝に仕掛ける」
「なら、決まりね。他に何かあるものはいる?」と見渡すが、誰一人として発言するものはいなかった。
「では、これで軍議を終える。各々の奮戦に期待する!」
「「「おう!!」」」