奸雄は天に問答し、天は世界の異変に触れる
この小説での時間は一刻で二時間計算です
「ーーー幼少の頃に知っていた「ハッ!皆無よ」だよな」
「じゃあ私から言いましょうか?あなたは以前我が軍にいたことがある。ただし、今の私の軍ではない。違うかしら?」
「どういうことだ?」
「管輅という占い師が、あなたが降り立つのが一回ではないと言った事に対して、貴方は否定しなかった。そしてあなたは管輅に管理者かと尋ねた。ということは、貴方はこの世界の裏の顔を知っているということになる」
「ーーー流石は華琳だ。だが、それとどう関係がある?」
「ーーー少し考えてみればおかしな話だったのよ。貴方は私のお気に入りの店を知っていた。しかも、私が行く時間までね。そこまで知るには、余程の監視をするしかない。だけれど私にそんなものがついているなら、既に捕まっているか露見しているわよ。でも、そんな報告は無いわ。なら後はあらかじめ知っていたということになる。そこでおかしいのが貴方が私の容姿を知っていたこと」
「それは、説明したはずだけど?」
「えぇ、だけれど貴方は人物を知っていても私を直接見たことは無いはずよ。だけれど私を見ても驚くどころか、当たり前のように、そしてその場の主導権を握った。まるで私の事を古くから知る友人のようにね。だけれどそこでは確信が得られなかった。その確信が得られたのが」
「春蘭、秋蘭という言葉と言うことか?」
「その通りよ。あの二人が真名を簡単に許すはずがない。だけれど貴方は違和感無くその言葉を口にした。とすれば考えられることは一つ。あなたがここに来る前の世界で、彼女たちに会い、真名を許された。それ以外考えられないのよ」
ここで北郷にも疑問が生まれた。
確かに曹操という人物にここまで言われるのは不思議なことではない。
ただ、あまりにも説明が的を得過ぎている。
まるで知っているかのように。
「(知らないことを知っているかのように)ーーーそうか!君は太平要術の書を読んだのか」
「ーーーそうよ。あれは本人が知りたいと思う事を教えてくれる書物。だから私はこの世界の秘密を知っている」
「俺の感じた違和感がそれだったんだな。だから君は管理者の事を見ても、徹底的に調べようとしなかった。もうこの世界のどこにもいないから」
「正解よ。でも、管理者が妖術を使えるのを私は知らなかった。でも、貴方はそれを知っている。ということは、貴方は正史の人間。この世界を自由に変えることのできる、天の御遣い」
「ーーー成る程、これは面白い。幾度時を巡ったが、こんなにも早く真実に迫ったのは誰もいなかった。ならばこそ問う、曹孟徳はこの乱世に何を求める!」
「愚問よ。私が作られていようと、その心までは渡さないわ!曹孟徳は覇道を歩む者よ!天下太平、それ以外にないわ」
「華琳らしい答だ」と北郷は納得した。
その時、勢いよく扉が開かれた。
「申し上げます!徐南にて賊が蜂起。その数およそ2万!現在ここ陳留に向け進軍中との報が」
「話はここまでね。軍議を開く!将を全員集めなさい!」
「はっ!」と伝令兵は即座に退出した。
その報から数分で主だった将が集められた。
「では、これより軍議を開く!今回から、我が軍の客将として北郷と廖化が参加するわ」と紹介された二人が頭を下げる。
「そして、今回北郷を我が軍の軍師に任ずるわ。皆、従うように」
「お待ちください華琳様!こんなやつを使わなくとも私が一気に叩いて見せます!」と自信満々の夏侯惇を見た曹洪が
「ダハハハハ!相変わらずの馬鹿だな春蘭!」と爆笑した。
「なんだと夏蘭!」
「やめなさい!春蘭、気持ちは分からなくはないけどこんな戦で兵を余計に散らす必要は無いわ」
「そうですよ春蘭。賊の鎮圧は相当な時間が必要です。いざという時に兵がいなくては勝てる戦も勝てなくなりますよ」と曹仁にまで言われてしまった夏侯惇は渋々席に着いた。
「じゃあ、軍師として若輩者ですがよろしくお願いします。まず敵軍の数は、およそ2万ということですが、進軍の状態は分かりますか?」
「それは、私から。徐南で蜂起した賊は、ここ陳留に向け二手に別れて進軍中とのことです」
「二手?」
「はい、南西から直接陳留に向かって来る軍と南東の村に向かい進軍中の軍勢です」
「成る程。では、その村に守備兵は?」
「いますが500程度です。このままでは、壊滅は必定でしょう」
「では華琳殿「貴様!華琳様の真名を!」「春蘭!軍議をいちいち止めないでちょうだい!それと北郷には、真名を許しているわ」ーーーよろしいでしょうか?」
ムムムと唸る夏侯惇を宥める夏侯淵。
それを見てまた笑い出す曹洪と呆れている曹仁。
これは本当に軍議なのだろうかと頭を悩ませる心音(廖化)。
「悪いわね、それで?」
「兵数の確認を・・・まだ、何も知らないからね」
「そうだったわね。北からの賊の襲撃も考慮すると、歩兵五千、騎兵二千、弓兵千の八千が限度ね」
「成る程、では街の救援には曹仁殿が歩兵二千でお願いいたします。必ず此方から出ることはせず、村の住民の安全を優先させて下さい」
「承知致しました。ですが、さすがに二千では、守りきれるかどうか・・・」
「伝令からは、進軍速度の話は聞きませんでしたか?」
「そういえば、騎兵がいるわりには遅いと・・・練度の問題と思いましたが?」
「やはり・・・恐らくその軍で戦えるのは多く見積もって六千でしょう」
「本当ですか?」
「考えてみてください。官軍が賊の鎮圧をしている中、わざわざ大軍を動かして家族を置き去りにしますか?」
「成る程、そういうことですか」と曹仁が納得すると、夏侯淵、華琳もニヤリと笑った。
「なんだ?意味がわからんぞ!」と夏侯惇が目が点の状態だったため、北郷は話を続けた。
その時、曹洪もなんとなく頷いてはいたが、理解は出来ていない様子なのを心音は見逃してはいなかったのは別の話。
「村に向かった賊は家族を連れているということですよ。ましてや二万の大軍の糧食を確保する場所も必要ですからね。だからこその村の占拠が本命です。陳留に向かってきているのはただの牽制でしょう。ですがこちらは確実に一万の軍です。城下が危険にさらされることはあってはならないこと。だからこそまずは、これを全力で叩きます」
「その村はどうするつもりだ?」
「迅速に撃破後、騎兵隊を先行させ救援させます。ですから曹仁殿、1日耐えていただければ構いません」
「1日ですか!?」
「構いません。恐らく戦闘は一刻程で終わらせますから」と淡々と言う北郷に全員が静まりかえっていた。
ただ一人、華琳だけが楽しそうに北郷を見ていた。
「では、出陣するわよ。今回は時間が勝敗を決めるわ!全軍速やかに行動を開始せよ!」