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焔が燃え盛り、狼煙が上がる

 時は少しさかのぼる。

 舞台は、盛大に負けると言って焔耶が出て行ったすぐ直後である。


「ちょっと待ってくれ、司馬懿」

「なんじゃ、これから忙しくなるというのに」


 面倒くさそうに司馬懿は答えた。

 もっとも話を聞かずに立ち去ろうとしても、服をがっちりとつかまれてしまったため話をしないわけにはいかないのだった。


「いや、魏延のやつ盛大に負けてくるって、いいのかよそれで」

「いいのじゃ。勝つか負けるかわからん勝負なら、負けて帰ってくるといわれた方が策が立てやすい」

「立てやすいって、士気が下がるだろう」

「じゃから、あえて全軍に伝えるのだ。魏延は負けて帰ってくる。ただしこれは策であるとな」


 それじゃあ間者がいたらばれるだろうと清(劉辟)は反論したが


「構わん。むしろさらにやりやすくなる。だが、間者はおらんよ」

「なんでいないってわかるのさ」

「春華の草に今のところ袁術軍の間者がいるかどうか常に見張らせているが、袁術軍が南陽から軍を出して一度も発見報告がない」


 嘘だろうと驚愕する清であったが、司馬懿はあきれ口調で事実じゃと返答した。


 情報が左右する戦。

 その情報を得ない者は負けるのは当然であり、大きな欠点となる。

 当然その欠点を司馬懿が見逃すはずもなく、北郷軍の逆襲撃が始まろうとしていた



 魏延襲来。

 だが、紀霊将軍なら勝てる。

 そう信じてやまない兵たちは気にすることもなく、落ち着いた表情でそれを見ていた。

 

 だが一人、紀霊だけ焔耶が先ほどまでと違うと感じ内心焦っていた。


「負け犬が何の用ですか?怪我をしているなら陣に帰って休まれてはいかが?」

「はっ!こんなの怪我に入らん。さぁ、やろうか!」


 意気揚々と焔耶は武器を構えた。


「あいにくですが、一騎打ちなどするつもりはありません」

「逃げるのか?」

「なんとでも言ってください」


 通り抜けようとする紀霊だったが、魏延が簡単に見逃すはずもなく前を遮られる。


「そう簡単に逃がすわけにはいかないんでな」

「だからする気はないって言ってるでしょうが!」

 

 焔耶に一撃離脱をしようとするが、簡単に伏せがれ再度足止めを食らった。

 そのことに紀霊は舌打ちし、焔耶はほくそ笑んでいた。


「なぁ、紀霊。戦を終わらせるにはどうすればいいと思う」

「話をするまでもないでしょう」

「そうだな、大将軍の器なら簡単にわかる話だ」


 停戦、兵の大損失、何かしらの不都合による撤退。

 戦を終わらせるにはいろいろある。

 だが、大将首を刎ねれば戦は終わる。

 それはどの戦でも共通する、誰でも知っていることである。


 だが、大将の首を大量の兵士が残っている状態で刎ねられるというのは、はっきり言って大恥である。

 それは当然指揮する配下にとって不名誉として残る物であり、紀霊にとってはあってはならないことである。

 その危機が紀霊の目視した限りではすでに起きている。

 

 影里による騎馬隊が一直線に袁術軍本隊に突撃しているのだ。

 兵は少ないが、突破力だけならば曹操軍に引けを取らない。


 紀霊の見立てではあれは本陣に到達する確率が高かった。

 だからこそ、ある一種の焦りが生まれる。


 だからこそ司馬懿の策は成功する。


「あいにくだがこの場は一歩も通らせん。通りたければ私を倒していくんだな」


「貴女程度で止められる私ではない!」と紀霊は押し通ろうとしたが、魏延は冷静に紀霊の太刀筋を見極めると、跳ね返し紀霊の体を鈍砕骨で吹き飛ばした。


「策は成ったな」


 その光景を見ていた司馬懿は冷静に軍旗を掲げた。


「敵将紀霊は我が策にはまった!今こそ反撃の時じゃ!」


 北郷の兵士たちが雄たけびをあげ突撃する様に、袁術軍の兵士は完全に意気消沈。

 先に攻めた影里はすでに本陣手前まで到達していた。

 さらにそこへ北郷軍の水香が遅れて到着すると勝敗は完全に決した。



 だが、そこに一群が現れると状況が一変した。


「報告いたします!北よりおよそ1万の軍勢が出現!」


「1万!?旗印は?」


「張!そして軍中には天の旗もあります」


 その報告を聞いた北郷は隣にいた司馬懿に目をくべらせると


「戦は終わりだ」と一言告げた。


「もう少しで決着というのに、袁家はよほど悪運が強いということか。全軍撤収!これ以上の追撃は不要じゃ!」と司馬懿が号令すると、本陣から赤旗が振られた。


 北郷の本陣から赤旗が振られると、北郷のすべての部隊が前進を中止。

 完全に勝っていると全員が分かっていたが、誰一人として抜け駆けや命令違反は起こりはしなかった。

 その姿を敵軍の紀霊はあまりにも不気味に思えていた。


 そして、両軍の前線に一人の少女が現れると旗をなびかせ声を発した。


「両軍に告げる!各自武器を収め和睦せよ!」




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