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霊は焔を退けるが、焔は消えず

敵将負傷。


その事実だけで袁術軍の指揮は一気に上がり、北郷軍はただ沈黙を保っていた。


北郷軍は本隊の北郷、伝令兵により先に心音(廖化)が到着、総勢8千。


袁術軍は本体の袁術が到着し、2万5千。


数にしてみれば圧倒的不利である北郷軍であったが、司馬懿と影里(徐庶)の巧みな指揮により死者、逃亡者はほとんど出ず、3日間ほど耐えることに成功していた。


この状況にイライラしていたのは袁術軍の方であった。


「ココ!あんなちっぽけな軍をいつまで倒せんのじゃ!」


ほほを膨らませ起こる袁術であったが、隣にいる張勲は


(怒ったお嬢様もかわいい~!)


と一人、主君で楽しんでいた。


「申し訳ございません。兵の数はこちらが有利ですが、将の質、兵の質ともに中華に名を連ねるほど強いと思われます。ここは、私自ら出る必要がございます」


「五々五さん自らですか?」


「はい。ですがその前に美羽様に自ら出て舌戦して頂く必要があるかと」


「わらわがかえ?」


「お嬢様に舌戦は無理ですよう」


「それはわかっています。問題は袁術軍が今回攻める大義がないことです」


「大義?そんなものいらんじゃろう」


「いいえ、いります。北郷軍を倒した後その領地は美羽様の物になるのです。ならば民に納得させる道理が必要です」


「それを舌戦で得ると?」


「はい。少々無理やり感は否めませんが、荀正がその役を命を賭して作ってくれましたから」と紀霊はにやりと笑った。


そしてその翌日。


袁術は舌戦へと向かった。


それに対し北郷も舌戦するべく陣を出た。


「今更何の用かな袁術殿?」


「今更とはなんじゃ!まるでわらわが侵略者のような言い方ではないか」


「おや?2万の軍勢を率いて国境線を越えたのはそちらだが」


「それに対してはわらわの不徳の致すところ。じゃが、先に攻撃を仕掛けてきたのはそちらのはずじゃ!わらわたちは天子様の命により、五斗米道の教祖を討つために軍を進めておったのじゃ。なのにいきなり攻撃するとは何事か!しかもこちらは荀正を失っておる。この落とし前はどうつけるつもりじゃ!」


「天子様の命とは、そのような報告もこっちには無いし、勅令であればその書があるはずだが?」


すると袁術は懐から一つの巻物を取り出した。


「これじゃ」


北郷はその巻物を開けると、中には確かに勅令と言える内容が記載され、印も押されていた。


(裏の取引か・・・袁術も名門だ。十常侍につながりはあるしな)


実際これは事前に張勲が南郷に攻め入る際の用意してあった巻物だ。


当然、本物の勅令ではなく偽装書。


普段つながりがある洛陽の宦官に書かせたものであった。


「たしかに勅令のようだ、だが偽装ということもある。こちらで確認次第、通るということでも構わないか?」


「貴様の目は節穴か!ここには1月以内と書かれておる!今からすぐに行かねば勅令に反する。貴様はわらわに勅令に背けというのか!もう我慢ならん!全軍突撃じゃ!」


袁術の手が上がった瞬間、2万5千の軍が一斉に動き出した。


「俺がこの地に任命されたのは天子の勅令だ。外敵は排除する義務がある。全軍を持って迎え撃つ!」


北郷軍も進軍を開始。


ついに両軍が正面衝突した。


「さすがはお嬢様!よっ大陸一の名役者!偽物の勅令書で敵を欺くとは、将来は皇帝になるのか!?憎いぞこのこの~」


「うむうむ、もっとわらわを褒めてたも。これからわらわの破竹の快進撃が始まるのじゃ!」


いつも通りの平常運航の袁術軍であったが、すぐに戦いの中で活躍を見せたのは袁術軍ではなく焔耶と心音の隊であった。


魏延が指揮する歩兵は北郷軍の中でも一番強い豫州兵から構成され、一人一人が袁術軍で部隊長が務まるほど力量差が違っていた。


また心音の部隊は音々音に付き従ってきた者たちで構成されており、隊長の号令をよく聞き北郷軍の中で速さに特化した集団でもあった。


2部隊はまるで研ぎ澄まされた剣で藁人形を倒していくように軍を進めていった。


これを黙って見ていないのが紀霊であった。


「大将軍魏延!雑魚ばかりしか倒す脳がないのか!それともなにか、この紀霊に負けるのが怖いか!」


「ぬかせ!その首、今度こそ取ってくれる!」


勢いよく飛び出す魏延であったが、紀霊と数十合打ち合うと、先日の傷が開き動きが鈍くなっていた。


「っち!」


「やはり、たいしたことはなかったですね」


「ここで死ぬわけにはいかないんでな、退かせてもらう!」と焔耶は後退を開始した。


「そう簡単には逃がしませんよ。敵将が退いた今が好機!全軍突撃!」と紀霊の号令により袁術軍の勢いが付くと、戦況は逆転。


北郷軍の本陣にまで一気に袁術軍が攻め寄せた。


「―――さて、行こうか!」


それは、まるで死の宣告のように発せられた。


「清(劉辟)!一斉射用意!」


「はっ!全体構え!」


「影里、一斉射後敵陣を一点突破。袁術に挨拶してきてくれ」


「承知しました」


「よし、弓兵発射!」


「全体、撃てー!」


約1千の弓兵による射撃は見事に袁術軍前線部隊を捉え、一瞬の怯みを与えた。


そこへすかさず影里による騎馬隊の突撃により、前線は混乱した。


それに対し紀霊は慌てることもなく、一度後退の号令を出した。


しかし、退路には既に別の部隊が回り込んでいた。


「借りを返しに来たぜ、紀霊!」

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