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天は審議し、仲は将を射る

南陽袁術が2万の兵を南郷へ向け進軍中。


この方を聞いた北郷は深夜に至急軍議を開いた。


「いずれ来るとは思っていたが、少々早かったな」


「はい、それだけ袁術の重税に民が耐え切れなかったということでしょう」と影里(徐庶)が冷静に言うと、その横にいた音々音が


「しかし現在、我が軍が集められる兵は5千が限度ですぞ。南の劉表もここ最近怪しい動きがありますからな」


「兵の錬度に関しては、うちの方が勝っているから問題ないだろう。問題は指揮する将だな」


「そうですな~焔耶殿は丁度、南から報告に来ていたから第一軍として使えますが、二軍として動かす将が劉辟殿、龔都殿しかおりませんぞ!」


「仲達はどう思う?」と末席にいた仲達に声をかけると、その本人はつまらなそうに


「袁術の兵の錬度は賊と変わらん。魏延一人でも問題はないじゃろ。ただ…」と司馬懿は窓から空を見た


「ただ?」


「星を見るに南陽の地に一際輝く星が出ておる。袁術軍に一角の将がいるやもしれん」


「一角の将…何かわかるか?」と徐庶と音々音に訪ねたが、二人とも首を横に振った。


「袁術軍に探りを入れてみましょうか?」と口を開いたのは張春華だった。


「そうだな、不確定要素は取り除いておきたい」


「かしこまりました」と張春華はすぐさま退室した。


「どれだけ顔が広いのですかね、張春華殿は」


「本当にすごい才能だよ。荀彧に匹敵するんじゃないか?」と笑う北郷に急使が飛んできた。


「報告します!袁術軍先発5千、南郷の国境を侵入致しました」


「旗印は?」


「荀です」


「荀?聞いたことあるか?」


すると音々音が首を傾げながら口を開いた。


「確か黄巾党の時に袁術軍と戦ったときに見かけたことがありましたな」


「ねね、采配はどうだった?」


「至ってなにかと突撃したがる様子でしたな。突破力はありますが、一度止まると舵が利かないのを逆手に撃退した覚えがありますぞ」


「焔耶と少々似ているということか」


「そうですね。もっとも焔耶殿であれば舵取りは出来ますが」


音々音の話に思案しようとした北郷であったが、司馬懿が先に腰を上げた。


「ならまずは、本体が来る前にそれを叩いてしまうかのう。殿、兵2千と劉辟を借りて行ってもよいか?」


「あぁ、構わないがそれだけでいいのか?」


「十分じゃ。それから焔耶には騎兵は使わせず、徐庶に使わせてくれ。今回は騎兵が鍵を握りそうじゃからな、焔耶では現場判断は厳しかろう」と言って司馬懿は退室した。


「2千で何をしようというのですかね?」


「任せろというのだから任せるさ。問題は兵力の差だな」


「残る兵は3千、そのうち騎兵1千、弓兵500ですからな、籠城する意味はないでしょうな」


「曹操殿に密書を送ってみては?」


「華琳は動いたとしても、それに払う対価がない。この後に借りを返す機会などそうそうないから、作るべきではないな」


「むむむ、心音(廖化)殿と水香(周倉)殿の軍は劉表の牽制に残さなければなりませんし…」


「―――いや、心音たちは戻そう」


その発言をした北郷に音々音が驚きながら反論した。


「それでは、劉表軍が攻めてきますぞ!」


「それは出来ないさ、劉表軍の南には誰がいると思う?」


「成程、言われてみれば確かに、虎がいましたね」


「それに劉表は思案深く決断するのが遅い、心音たちの救援で迅速に撃破すれば劉表が動く前に決着をつけることが出来る」


「そうですな、心音殿たちの5千の兵があれば、袁術軍でも簡単に撃退は可能でしょう」


「方針は定まった、各自行動を始めてくれ」


「「御意!」」


かくして、北郷たちの慌ただしい一夜が終わった。


そして明朝、手勢を集めた司馬懿は劉辟と共に荀の旗を持った袁術軍と対峙していた。


「朝早くにご苦労なことじゃな」


「どうやら昼夜構わずにかけてきたみたいだねぇ」


「劉辟、まずは一当てと行こうかのう。手勢は千を連れ様子を見てほしいのじゃが」


「千でか?突っ込めばさすがに数の差でやられちまうよ」


「それでいい、旗色が悪くなったらそのまま来た道を戻ればよい。この辺りは森林が多いからの」


「成程、伏兵というわけかい」


「そうだ、ただ無理に敵を連れる必要はない。相手が突っ込んで来れば楽に勝てるというだけだ。まずは将の器を見る」


「了解したよ。じゃあ、行くぞお前ら!」


劉辟隊が突撃すると、それに続き、荀の旗も動き始めた。


戦況は司馬懿の指示の通りに動き、最初勢いのあった劉辟隊であったがすぐに数の差で劣勢となり、次第に劉辟隊は後退を始めていた。


「なんだなんだ、天の御使いとかいう軍はこの程度か!全軍、追撃だ!残らず踏みつぶせ!」


号令とともに袁術軍が猛烈な勢いで追撃を開始した。


その状況を司馬懿はつまらなそうに見ていた。


「一瞬のためらいもなく突っ込んで気負ったか…戯け。全軍後退し、森林に入ったのち各自指示通りに動け」


森林に入った瞬間、司馬懿の兵は各自ばらばらの方向に走り、各々森林の闇に消えていった。


そして、その後を追うように劉辟隊が森林を一直線に駆け、その後ろに袁術軍が追撃してきた。


そして司馬懿は先頭を走る劉辟を捕まえ、さらに指示を飛ばした。


「森を抜けた先に弓部隊を待たせてある。弓部隊を通過後反転、整列をし再度敵に突撃してくれ」


「了解、全軍駆け足で森を抜けるぞ!」


「「「おう!」」」


およそ800の兵士が劉辟の指示のもと森を通過すると、抜けた先には鶴翼の陣で待ち構える弓部隊が中央を開けながら、待ち構えていた。


その中心を劉辟隊が次々進む中、最後尾から少し離れた位置に、袁術軍が姿を現し始めた瞬間、待ち構えていた弓兵が一斉に矢を放った。


およそ100の矢が袁術軍めがけ飛び、森をいち早く出てきた袁術軍に突き刺さると、袁術軍の動きが一瞬止まった。


「いまじゃ!反転せよ!」


「全軍反転!抜刀!袁術軍に突撃だー!」


袁術軍の若干の混乱が見られた瞬間、少し後方にいた男が騎馬上から指示を飛ばした。


「落ち着け!敵は少数だ!十分押し切れる!」


その光景を遠目から見た司馬懿はにやりと笑い。


「報告に聞いていたよりは成長していたようじゃな。じゃが」


その瞬間、数本の矢が一斉にその男めがけ突き刺さった。


「将としては、悪いが落第じゃ」


その男が倒れる瞬間、目に映った光景は木々の上にいる複数の北郷軍の兵士であった。


「軍は将がいて成り立つ。相手の数が多ければ将を狙う。まぁ、基本中の基本じゃな」



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