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天は住地を得、覇王は天に仲を取り持つ

「なっ!」と声をあげたのは華琳であった。


いきなりの大抜擢であり、それが成立してしまったからだ。


帝の勅令とはそれほどの力があり、一度発言した内容を取り消す事などまずありえない。


今この時、曹操軍の客将という立場は解約され、南郷太守北郷として世に広げられたのも同然であったのだ。


「お待ちください、陛下。北郷は私の客将です。どうかお取り下げを」


「カクショウ?どんなお菓子?」


「お菓子ではなく、曹操軍のお客として将軍を行っているという意味ですぞ陛下」


「へぇ~そうなの。ん?だけど客なんでしょう。なら曹操の臣下というわけじゃないじゃない。なら問題はないはずよね」


この反応に腹を抱えて笑っていたのがこの後、長沙太守に任じられる孫堅であった。


「あきらめろ曹操、お前の考え違いということだよ。北郷に将軍の地位でも与え手元に置きたかったんだろうが今回は失敗だったな」


「うるさいわね」


しかしこのやり取りに一歩先に出て決着をつけたのは渦中の北郷だった。


「陛下!私北郷、南郷太守の任謹んでお受けいたします」


「そう?!なら任せた!」と自分で言った事が受け入れられたことが嬉しかったのか、霊帝はわはははと笑っていた。


やれやれと頭を抱える何進とは裏腹に十常侍はひそひそと話し合っていた。


この議で他に曹操は西園八校尉に孫堅は長沙太守に、袁紹は西園八校尉となり洛陽警備を担当、董卓は爵位よりも兵糧を欲したので兵糧を、劉備は平原太守となった。


そして北郷は心音たちのもとに帰ると、南郷太守の任に就いたことを伝え、先に陳留に帰り南郷の地で合流することにした。


北郷も帰るべきではあったのだが、華琳に付いて来て欲しい所があるといわれ、洛陽から少し離れた民家に訪ねて来ていた。


「陳留太守、曹操が来たと伝えてくれるかしら?」と華琳は民家の中にいた女性に話しかけた。


「あら、曹操殿お久ぶりですね。待ってくださいね今寝ているので叩き起こしますわ」と女性がにこやかに笑うと、民家の中に入って行った。


「ここは?」と尋ねる北郷に華琳が答えようとした瞬間。


「ぎゃー!おっ起きるからやめんか!」と男が奇声を上げた。


すると民家の戸が開き


「お待たせいたしました曹操殿、御使い殿」とにこやかに笑った女性は民家に入るように促した。


「私が話すよりも直接会った方がいいわ。話はこの家主に聞きなさい」と華琳は先に民家へと入って行った。


(華琳が知る人物?洛陽でそんな人物いたか?)


北郷は疑問に思いながらも、家の門で立っているのも何かと民家に入ることにした。


民家に入ると女性に客間に案内された。


するとそこには胡坐をかきながらあくびをしていた一人の少年がいた。


「おぉ!曹操と…誰じゃお主は?」


「久しぶりね仲達」


「仲達…ってまさか司馬仲達か!」


「おぉ!わしを知ってるか!となるとお主は天の御使いかな?」とにやにやと笑う少年こと司馬仲達は茶をすすった。


「華琳、付いて来て欲しいといったのは?」


「司馬懿に合わせてみたかったのよ。どうやらこいつは私に仕えるのは嫌らしいから、あなたならどうなのかと思ってね」


「いいのか?」


「まだ仕えると決まったわけでもないし、あなたは私の物になるのだもの。あなたに司馬懿が仕えるなら後に私の物にもなるじゃない」と笑った。


「では、私もご挨拶いたしましょう。司馬懿の妻、張春華と申します」


「そしてわしが性は司馬、名が懿、字が仲達じゃ」


「南郷太守になりました。性が北郷、名が一刀です」


北郷と華琳は座り、張春華は茶を出すと、司馬懿の隣に座った。


「さて、私も北郷もあまり時間がないのよ。だから単刀直入に言うわ司馬懿、貴方北郷に仕えなさい」


「全く、人材馬鹿は相手の矜持を気にすることがないのう。初めてあった人間にいきなり仕えろなど無理に決まっとるだろうが」


「矜持?はっ!貴方にそんなものがあるわけないでしょう?」と華琳は馬鹿馬鹿しいと吐き捨てた。


「矜持ぐらいわしにだってあるわ。お主と話していると拉致が明かんわ。御使い、いや北郷殿。貴殿はこれから何を成したいのかをまずは聞かせてもらおうかのう」


「何を成したいかと言われるのであれば皆が笑って暮らせる世と言いたいですが、現実味がありませんからね…人が人でいられる世を目指します」


「なぜ最初に言った方を目指さないのかね?」と司馬懿は面白いものを見つけたかのように目を輝かせていた。


「皆が笑って暮らせる世とは、すなわち誰も傷付けてはいけない。争いの無い世の中でなくてはなりません。はっきり言ってどんなに国家が理想の物であっても人間が人間である限りそんなものは不可能です。人間が統治する限り、必ず笑う者と泣く者がいる。だから理想はしても目指すのには無理があります」


「では、人が人でいられる世とは?」


「今の平民には家畜同然の扱いを受けているものもいます。人身売買や、職がなく奴隷として働く者もいます。その底辺にいる者たちを普通に家族を持ち、職を得、天寿を全うする世を目指します」


「ほう?で、そのためには何をすべきかわかっておるのか」と司馬懿の目は鋭さを増した。


「天下布武。俺の国の昔の男がやろうとしたことです。この国の政から変えるというのはすでに不可能に近いでしょう。十常侍の権力が強すぎて、どの名士でさえも中央から権力を握るのも不可能です」


「それは確かにそうじゃが、大将軍になった何進の例もあるではないか?」


「確かに、何進殿は庶民から十常侍と対する位には付けました。しかし、黄巾の乱はほぼ終息した今となっては、彼はすでに獅子身中の虫。おそらく後少しの命でしょう。第二の何進にはなれませんよ俺は」


「なるほど、先を見据えた慧眼を持っているというわけか。わしなど必要なさそうじゃ」と司馬懿はつまらなそうにした。


「いえ、貴方は必要です。今はまだその時ではないかもしれませんが、私では敵わない者が世に6人います」


「ほう?それは誰かな?」


「伏龍、諸葛亮。鳳雛、龐統。美周嬢、周瑜。神算鬼謀、郭嘉。十面埋伏、程昱。王佐の才、荀彧」


「あの子が王佐の才ねぇ~」と華琳は陳留防衛戦の後、華琳の陣営に加わった荀彧の事を思い浮かべた。


「その者たちと、お主は知勇を決する必要があるということか?」


「はい。時が来れば華琳、君と戦うことがあると俺は思っている」


「あら、面白いじゃない。その時は容赦しないわよ」


「ふむ、曹操とも戦うか…」


すると、黙っていた張春華が口を開いた。


「もう良いではないですか?いい加減駄々をこねるのは」

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