蒼天は死せず、黄天は死す
北郷一刀は、ある仮説を立てていた。
軍議の際の報告を聞き、各諸侯の経歴を確認し今まで体験してきた外史の中と比較した。
その結果、あの三姉妹に手におえるレベルをすでに超えていることが判明した。
今まで経験した外史では張三姉妹の追っかけが暴走していただけであったが、この外史でははっきり言って張三姉妹の話題が少ない。
むしろ本当の賊としての割合が強く、朝廷にちゃんとした不満を持つ者たちが多い。
これが意味することはあの三姉妹を象徴とし、誰か実権を握る者が複数人いるかもしれないということだ。
そう考えると、すでに戦った程遠志もおそらくその一人だった可能性が高い。
しかも孫堅からの情報によると賊を指揮しているのは、張曼成、波才、趙弘、厳政、高昇の5人であることが分かっていた。
そして、心音(廖化)や水香(周倉)元黄巾党たちの話によると、厳政と高昇は実際に追っかけであるが、張曼成、波才、趙弘は各地の賊が後に黄巾軍に入ってきたらしく、特に張曼成、波才は総大将として指揮にあたることが多いらしい。
ここまでくれば仮説は現実味を帯びてきていた。
複数人で動いているのであり、信念が違うのであればこそ通じるものがある。
人間、三人寄ればいろいろ知恵が出るというが、それは言い換えれば考え方が異なるということだ。
まして追っかけと賊でまとまった軍である、当然絆などあるはずもない。
いい例が程遠志の敗走兵を全て切り捨てたことだ。
やったのはおそらく賊側だろう。
だからこそ、北郷はこの策を選んだ。
「離間計とはね、単純な計略だけど効果は絶大。この戦いの勝敗は決まったわね」と華琳はこれから始まる殺戮に、より良い結果を残そうとすぐに動いた。
「夏候惇!」
「はっ!」と春蘭が進み出た。
「大将首を取りなさい。ほかの軍に取らせてはだめよ」
「お任せを!行くぞ!」と夏候惇は手勢を率い城へと突撃した。
「夏侯淵!」
「はっ!」
「その弓で夏候惇の道を塞ぐ者を全て射抜きなさい」
「御意!」と秋蘭も手勢を率いて春蘭に続いた。
そして華琳は絶を掲げた。
「我が将兵よ!狩りの時間だ!その手に持った剣で、散々駆け回った獣に終止符を打ってやりなさい!情けはいらないわ!骨の髄まで曹操軍の強さを刻み付けよ!」
大地を震わす発声とともに青き悪魔たちが一斉に城へと突撃した。
一方そのころ城内では大混戦になっていた。
内乱を起こしたのは追っかけ組、厳政、高昇の隊であった。
「お前ら!よくも張角ちゃんたちを監禁してくれたな!この落とし前は高くつくぞ!」
「全軍!この腐った野郎どもを血祭りに上げろ!」
張角たちは監禁されていた事実を知った厳政、高昇は影里(徐庶)の話を聞くや、顔を真っ赤にし救出作戦を決行、無事三姉妹は賊軍から解放され、現在影里の手引きにより北郷が待つ本陣へと向かっているのであった。
その影里はどうやって入っていたかというと、前日の混戦に紛れ黄巾党となり、城内へと入っていた。
殺される可能性があるのではないかと懸念する者もいたが、実際逃げてきた程遠志の兵を切れたのは、その確認が取れていたことがあってのことだ。
戦時中に大規模な賊がいちいち点呼などとっているようなものであれば今頃勝敗など決まっている。
だからこそ影里は厳政の部隊に紛れ、入ることが出来たのだ。
そして北郷はというと…
「曹操軍での最後の戦いになるな」
「これが終わったらどうするおつもりですか?」と心音が聞くと北郷は真剣な顔をした。
「いつまでも雛ではいられないからね。君が言った覚悟が決まった」
「それでは!」
「あぁ、王として進むよ、と言っても小さな王だけどね。だからこそもう一度聞こう、廖元倹。俺の覇道を支えてくれるか?」
「はい」と感極まったかのように心音が返事をした。
「お二人さん、乳繰り合ってるのはいいが、敵が来てるぜ」と水香に水を差され、顔を真っ赤にした心音は、剣を抜いた。
「わかってますわ!」
「何が分かってる!ですか、ねねの指揮がなければ戦線が崩壊しておりますぞ!」
「悪かったよ。ねね、影里は?」
「まだですな。こちらの戦線を押し上げますか?」
「いや今回、名は必要ない。そうだな、焔耶を前線から抜けさせ影里の護衛に向かわせる。前線は心音と水香に任せる」
「あいよ」
「心得ましたわ!」
「突撃は東側の城門陥落後でいい。何進軍と袁紹軍が攻略しているからさほどかからないだろう。名はおそらく孫堅が取るだろう。南門は強固とはいえ、その分の兵は少なかったからな。いくら華琳といえども、孫堅にはまだ経験で劣る」
(それに向こうには周瑜もいるしな)
北郷の予測したことは的中し、一番乗りを大々的にしたのは孫堅軍であった。
その孫堅軍が城内突入に成功した一刻後、今度は東の城門が完全に衝車により崩壊。全軍突入し、場内は混乱、そして、張曼成、波才、趙弘は夏候姉妹によって尽く討たれた。
第一章、黄巾の乱 完




