燃える夜は終わり、天は剣を得る
冬蘭は目の前の光景に唖然としていた。
あまりにも一方的に炎に蹂躙されていく黄巾軍。
そしてその中で確実に隊長クラスの者を次々と討つ金棒を振り回す女と、その混乱している者たちの中に鉄球を打ち込む少女。
そしてなにより、私兵であろう者たちを的確に指示を出している童。
官軍でさえ相手になるのか疑問に思うレベルの戦果を、軍ではなく一個人としてやってしまっているのだ。
するとこちらに気づいたのか、童が近づいてきた。
「陳留の軍とお見受け致します」と合掌し頭を下げた。
「あなたは?」
「徐元直と申します」
「私は曹仁です、あなたたちを城に迎い入れたいのですが…」
「ありがとうございます。では撤収の合図を出しますので、曹仁殿は他の者の殿をお願いできますか?」
「わかりました。ですがどう見分ければいいでしょう?」
「全員に黄巾の頭巾を取り、手で持ちながら退却するように説明してあります」
「なるほど。誰か今の言を場内の荀彧殿に」
「はっ!」と一人の騎馬兵が迂回した。
「では、合図を出します」と少女は先ほど出てきた天幕に向かって松明を投げ込んだ。
すると突如、溢れんばかりの光とともに轟音をあげ、天幕を吹き飛ばした。
「いまのは!?」と曹仁が驚きながら尋ねると
「西方の火薬を集めそれを爆発させたのです」と答えた。
するとその童の後ろのほうに先ほどの金棒を振り回した女と、鉄球を打ち込んでいた少女が近づいてきた。
「徐庶!撤収か?」
「はい、魏延殿。許褚殿もご健在のようで何よりです」
「敵は今の爆発で消沈してるみたいだよ」
「はい、ほかの者も今の爆音で脱走ができているようですし、我々も撤退しましょう。では曹仁殿」
「任されました。後ろは気にしなくてかまいませんよ」
それからは簡単な撤退であった。
賊の指揮を執っていた管亥が討たれたことにより指揮系統が乱れ、さらにその混乱に乗じ張梁が戦線を離脱。
次第に同士討ちする者もおり、誰一人収まりがつかなくなってしまったため、追撃を行うものがおらず黄巾党は一夜にして死傷者1万にも及ぶ被害を出してしまった。
その一夜明けた頃陳留の北から北郷率いる曹操軍が出現し、黄巾党はさらに動揺を隠せなかった。
そんな中本郷は一人、前に進み出た。
「誰か、代表として私と話をしようとする者はいないか!」
すると黄巾軍の中から二人が姿を現した。
「話に応じよう」と青いショートヘアーの少女と、赤のショートヘアーの少女が進み出てきた。
「俺は北郷一刀だ」
「あなたが天の御使いか…私は劉辟だ」と青いショートヘアーに続き赤いショートヘアー少女も自己紹介をした。
「私は龔都だよ」
「では、単刀直入に言わせてもらう。どうであろう、降ってはくれないか?」
「馬鹿を言うんじゃないよ、あんたたちに殺されそうになってるのに、どうやって従うことが出来んのさ?」
「だが、どう戦う?」
「私は自分が信用したものしか従わない。この国は腐ってるからね」
「それで反乱を起こしたと?」
「あたしたちにはね人を雇えるお金なんてないのさ。自分が飲まず食わずってんならこんなことはしないよ。だけどねあんた、この国でいったい何人の子供が無事に大人になれると思う?」
その問いに北郷は答えることはできなかった。
昔の自分であれば憶測でものを言っていただろう。
まして自分が繰り返しているのは、黄巾の乱発端からだ。
それ以前の宦官の悪習を知っていても、現実に目にしているわけではない。
だからこそ彼は生半可な気持ちで答えることはできなかった。
「私の住んでた村ではね、10人に1人だったよ。…これでもまだましな方さ、だからこそ私たちは漢に降ることはできない。笑って子供が暮らせない漢になんか降ることはできないんだよ」
「それで、降れないからここで討ち死にすると?」
「芯は曲げないよ。私は漢には降らない。それで討ち死にするならそうするしかないだろうね」
「―――ならばもう一度言う、だがこれは天の御使いである俺自身の言葉だ、漢は関係ない。降ってくれ、そして力を貸してほしい」
「だから言ってるだろう私は・・・」
「劉ねぇ~、北郷さんが言ってるのは漢ではなく北郷さん自身に降ってくれってことだよ」
「だからそれとどういう・・・あんたまさか?」
「どう取ろうと構わない。この国は一度生まれ変わる必要があるのは事実だ、だがまだその時じゃない」
「時じゃない?じゃあ、いつだってんだ!」
「この乱の後、宮中で宦官の騒乱が起きる。その後に群雄割拠の時代がやってくる。その時が大業を成す時だ」
「嘘くさい話だね…それも天の知識っていうのかい?」
「然り!」
そのとき劉辟は思った。
同様もせずに澄んだ瞳向けてきたこいつには先を見据えた大きな大志があるのではないかと。
「じゃあ、あんたはいったいその時何をするんだい?」
本郷は手を握り力強く宣言した。
「世を統べる!」
この時二人は全身を奮い立たされるような衝撃に見舞われた。
「こいつは傑作だ、あんたが世を統べるだって?」
「少し違うな、俺が目指すのは俺が作る天下ではない。生きるために一人一人が作る天下だ」
「その中にあたしたちも加えようっていうのかい?こんな身分の低いあたしたちを?」
「身分など人が定めただけ、俺も、君たち二人も人間だ。劉辟、龔都、それにほかの者にも伝えてくれ、国を作らないかと」
「国を作る・・・そんなこと考えたこともなかったね」
「劉ねぇ、あたしたちは間違っていたのかもね。上を切っても国は変わらない、この国は滅ばなくちゃいけないんだよ」
「こりゃ、敵わないね。あんたの目には私たちが敵と映ってはいない。初めから眼中になかったわけだ。負けたよ、北郷…いや、一刀様。その大志の一端に我が名を添えて頂きたい!」
「私も、一兄様!」
「ありがとう。歓迎する」
こうして劉辟、龔都は北郷軍へと降った。
この軍が後に青州兵と対になる豫州兵として、北郷の力となった。




