才ある者は爪を隠し、愚者は火に踊る
「どういう状況だよこれは?」
頭を抱える夏蘭に対し、戯志才は
「さぁのう…だが、これは好機じゃ。隙を見て離脱できるやもしれん」
するとフードを被った童が、前に進み出た。
「どうぞ、先にお進みください。この場は私が引き受けますので」
「引き受けるって…餓鬼に何が出来る?」と尋ねる夏蘭に対し童は
「そのようなことを気にしている場合ではないでしょう。この場にはまだ30名ほどしかおりませんし、ここに居る二人はあなたに遅れは取らないと思いますよ?…曹洪殿」と笑みを浮かべた。
「お主、もしや…いや今はやめておこう。行くぞ曹洪」
「信じていいんだな?」
「はい、本郷殿が来るまで城の護衛も務めておきますよ」
「へっ!そりゃ面白い冗談だ。…武運を祈る」と夏蘭は馬を蹴った。
「はい、そちらも無事に突破されるよう願います」と真横を通った夏蘭たちに告げた。
「逃がしゃしねぇよ!弓兵、撃ち落とせ!」と管亥の激が飛んだが
「遅い!」と童がその場で何かを投げつけると、3人ほどいた弓兵が一斉に倒れた。
その全ての弓兵には深々と短刀が突き刺さっていた。
「やるねぇ~君。じゃあ護衛はいらないかな?」と鉄球を投げつける少女に対し
「はい、あなたは心おきなく戦って構いませんよ許褚殿」
「もちろんそのつもりだよ。こいつらは村のみんなの敵だからね!」
「だが、油断するなよ許褚!敵は次第にこちらに集まり始めている。さすがにこの数を相手にはしていられん。逃げ道は作っておくぞ」
「いえ、その必要はありません。とにかくお二人は派手に暴れてもらえれば構いません」
「そうか…なら任せておけ!」
一方その頃、陳留では冬蘭が出撃準備をしていた。
「報告します!夏蘭殿が陣に入ったもよう。その後、敵陣にて火の手が上がりました」
「おかしいですね、そんな予定はありません。…荀彧殿を至急ここへ!」
しばらくして荀彧が駆けつけると、その火の手は陳留側からもわかるほどに広がっていた。
「どう思いますか?」
「恐らく、敵内部での離反かと思います。火の手が上がっているのは主に三箇所、斥候の報告では兵糧庫、武器庫、陣の中心部の将の寝所だそうです。よほどの知恵者によるものかと」
「斥候!いつの間に?」
「敗残兵に見せかけ、私兵を紛れ込ませておきました」
「成る程、流石は荀彧殿。では此方はどう動きましょうか?」
「曹洪殿が抜けるのには問題ない為、出る必要性は無いでしょう。ですが、知恵者の生存は保証できません。その知恵者を助けるのであれば、出陣する必要があるでしょう」
「ならば答えは一つですね。華林様には優秀な者が必要です」
「では、曹洪殿が辿った道をお進みください。敵は四方に散った囮に踊らされ未だ混乱状態です。精鋭100騎で行けば確実にお戻りになれるでしょう」
「よし!皆、出陣する!騎兵隊100名は私と共に敵陣へと赴く!あとの者は荀彧殿の指揮下に入れ、これは華林様の命である」と皆の前で剣を荀彧に渡した。
それは曹操が警邏の時に帯刀していた剣であった。
まだ人材の乏しい曹操は、時折自ら警邏を行っているのだが、一人で行くことが多かった。
だが曹操の愛用武器、絶は彼女の身の丈ほどの鎌である。
そんなものをぶら下げていては逆に不審がられてしまう。
そのため、曹操は街の鍛冶場職人に剣を作らせたものがこの倚天の剣であった。
曹操は大変これを気に入り、他の者を総大将とする時は必ずこの剣を持たせていた。
言わば曹操軍の軍権の象徴でもある剣であった。
「これは!?」
「華琳様より預かりし剣だ。この意味、荀彧殿ならばお分かりいただけよう?」
「!!必ずや城をお守り致します」と荀彧は頭を垂れた。
「では、開門!!」と冬蘭は声を上げると、目の前の重圧な鉄の扉がゆっくりと開き始めた。
「全員、敵とむやみに交戦することは避けよ。目的は反乱軍首謀者の確保だ、一糸乱れずついて来い」
「「はっ!!」」と精鋭100騎が一気に躍り出た。
そして場面は再び黄巾党の陣に戻る。
「どうなってやがるんだこれは!」とあちこちから火の手が上がった報を受け、管亥は動揺していた。
すでに自分が掌握できる者が周りにおらず、目の前の猛将たちは周りの兵を次々になぎ倒していく。
「もう終わりですよ。食料は全焼、武器も使い物にならず、兵士は不眠状態」とフードをかぶった童はゆっくりと管亥に近づいた。
「これでどう曹操軍と戦うおつもりで?」
「うるせえ!何もかも、お前のせいだ!」
「あはは、これは面白いことを言われる。この事態を引き起こしたのは何もかもこの軍を掌握できていないあなたのせいですよ。兵糧庫、武器庫に信頼におけるものを置くわけでもなく、面倒だからと他人に押し付け、自分の思いどうりにならないとすぐに暴力に走る屑が引き起こしたものだ!」
「ぐぬぬぬ!貴様!!」と管亥が剣を抜いた瞬間、その童は一瞬にして管亥との距離を縮めると、その懐から短刀を取り出し振り抜いた。
まさに管亥にとっては一瞬の出来事であっただろう。
首が一瞬にしてはじけ飛び、周りの軍の燃え盛る景色を見ながらその生涯を終えた。
「あなた程度の屑、将が手を下すまでもありません。さっさとあの世の業火に焼かれてください」
その童は短刀を振り払うと、フードの下に隠してある鞘に戻した。
素早く動いたため取れたフードからは、幼い顔をした黒髪のツインテールが姿を表し、その瞳は揺れ動く炎のように赤かった。
「敵将管亥、徐元直が討ち取った!」




