龍は飛び立ち、黄色に染まる道に花が咲く
「全く!あなたと言う人は!」と大声を上げながら心音(廖化)は床に伏している周倉に怒りをぶつけていた。
「良いじゃねぇか、こうしてお互い生きてるんだしな」とケラケラと笑う周倉は悪気など一切感じてなかった。
「しかし、ありゃどうなってんだい?」
「あれとは一刀様の事ですか?」
「あぁ手合わせしたからわかるが、経験の差が違いすぎる。飛将軍のように天賦の才とか言うもんじゃねぇ。ありゃ外見は若造だが、中身は熟練者の老兵だ。普通の人間じゃ勝てねぇよ」
「そう言うわりには、随分楽しそうじゃない?」
「楽しいに決まってるさ。ようやく待ち望んでいた奴に出会ったんだ。この世を治すにはああいう化け物染みた奴じゃなきゃ無理だろうからな!」
「ということは?」
「仕えさせて貰おうじゃないか、天の御遣いにさ!」
その頃、北郷、華琳、春蘭、秋蘭、劉備、関羽、張飛、簡雍は濮陽の玉座にいた。
「なんの真似かな?」と北郷は、目の前に突き付けられた青竜偃月刀をつまらないものを見るかのように呆れていた。
「とぼけるな!貴様が我らを謀ったからだろう!」
「謀るとは心外な、曹操殿は言いませんでしたか?必勝の策があると」
「それとこれとは話が違うだろう!」
「では、曹操殿にお聞きしましょう。此度の戦、何か我が策に問題がありましたか?」
「無いわ」と玉座に座っていた華琳はこの茶番を楽しんでいた。
「関羽殿、軍師とは時に味方を欺き勝利を導くことも必要です。まして此度の戦、程遠志は敵の戦の情報を収集することに関しては賊軍一の者でした。だからこそ必ず策は失敗します」
「そんなの詭弁だ!」
「詭弁で結構。その為に被害が少なくなるのであれば俺が悪名を背負うことに異論はない!」
「だが!」
「愛紗ちゃん」と劉備は首を横に振った。
「北郷さん、それがあなたの目指すべき世ですか?」
「違うな、今の俺は中身のない御遣いという名の殻を被っているだけの人形さ。ただ世を平和に導くという使命を負ったな・・・」
「そんなの・・・(あなたが救われないじゃないですか)」と劉備は唇を噛み締めた。
「桃香様、そろそろ」と簡雍が促すと
「私は・・・いいえ、今の私には貴方に何も出来ません。だからこそ」
「あぁ、力をつけてこい。それは君に必要なことだ」
「曹操さん」
「華琳で良いわよ桃香、次に会う時を楽しみにしているわ」
そしてその日、劉備一行は西に向かって進軍していった。
暫く監視をつけた結果、官軍の廬植と合流し西涼の董卓の救援に向かったという報告を受けた。
既に他の外史から外れた流れは北郷の知識を無力化するために行われたのか定かではないが、劉備たちが冀州の張三姉妹討伐戦に参加してくることはなかった。
だが、その前に問題がひとつあった。
濮陽の戦いの後、北郷は華琳の呼び出しを受け前に立っていた。
その首には絶を当てられたまま。
「此度の戦、見事だったわ。だけど、私を利用するとはね」
「利用されるのは嫌いかな?」
「構わないわ。それを含めて貴方を軍師に任命したのですから。だけれど、一つ貸しよ」と絶を引いた。
「そりゃ困るな」と北郷が笑うと華琳は
「せいぜい困っていなさい。それで、次はどうするつもり?」
「次に駒を進めたいが、恐らく」と北郷が思慮に更けようとしたときだった。
「華琳様!」と秋蘭が血相を変えて駆け込んできた。
「何事か!」
「陳留から救援要請です!小沛から賊軍が三万出陣したとの報告!」
「それで、冬蘭(曹仁)からは?」
「策は八割がた完了したとのこと。ただ兵が足りないため救援要請と言うことです」
「北郷!心音と春蘭を連れて先行しなさい。兵の人選は任せるわ」
「了解。なら、華琳はここを死守してくれ。俺と心音、春蘭に歩兵5千もあれば大丈夫だ。戦後処理は引き続きねねにやらせればいい」
「次の布石を打つためかしら?」
「あぁ、張梁を崩せばこの乱は一気に終息に傾く。その為には濮陽の道は確保しておきたい」
「わかったわ」
「あぁ、それから帰ってきたら軍師を一人連れてくるよ」と北郷は笑い、退出した。
少し時は遡り、賊軍襲来の報を受けた冬蘭は夏蘭(曹洪)と話し合っていた。
「来ましたね」
「あぁ、一世一代の大戦だ!燃えてきたぜ!」と夏蘭は拳を握ると今にも飛び出して行きそうに体をうずうずさせていた。
「待ちなさい。北郷殿からの袋があったではありませんか。まずはそれを開けますよ」と二人は袋を取り出した。
「ふむ、補給部隊にいる部隊長に指示を仰げと・・・そちらにはなんと?」
「戯志才の婆さんに会えってさ。そんでもって婆さんの護衛だと」
「ならばその二人に会ってみましょう」と曹仁は二人を呼ぶように兵に指示を出した。
一刻後二人の女性は二人の前に現れた。
「招集に従い参上しました」と少女と
「ワシを呼ぶとは、孟徳も珍しいことがあるんじゃのう」と白髪の年寄りが現れた。
「時間がありませんので単刀直入に言います。現在陳留に向かい賊兵3万が小沛から出陣したとの報がありました。これを打開するべく、我らの軍師があなたたち二人に力を借りるようにというので招集した次第です」
「ほほう?」と戯志才は笑い、少女は驚いていた。
「それで、撃退出来そうか?」と夏蘭が訪ねると
「ふむ、そうじゃのう。桂花はどう見ておるか?」
「陳留には現在戦闘可能な兵は1万。相手はその三倍ですから、撃退はかなり厳しいでしょう。ですが、負けることはないと思います」
「はぁ?撃退できねぇのに負けないって意味わかんないんだけど」
「(これだから脳筋は・・・)援軍を要請し、援軍が到着するまで時間を稼ぐことは十分できると言うことです」
「成る程、ではそのように動いてもらいましょう」
「動くとは?」
「此度の戦、あなたを軍師として私の権限で任命します」
「なっ!?」
「ほう?嬢はなかなか面白いことを言うの」
「他人事ではありませんよ。戯志才殿は彼女の補佐に付いて下さい」
「ーーーよかろう。中々面白そうだしの」
「では、よろしいですね?」
「はっ!この荀文若の策、とくとご覧にいれましょう!」