奸雄と龍は掌で踊り、天は水を得る
城の内部から煙が上がったのを確認した華琳は、春蘭に前進するように指示を出した。
「行くぞ!狙うは程遠志の首のみだ!」と夏侯惇が突撃を開始すると劉備軍の張飛もまた行動を開始した。
「鈴々たちも行くのだ!突撃!粉砕!勝利なのだー!!」
その名乗りと同時に、城門が開き始めた。
恐らくは心音(廖化)の手の者だろう。
「まずは、成功といったところかしらね・・・それじゃあ、こちらも次の手をうちましょうか」
華琳は後方に控える兵に向き直ると声高らかに開戦を告げた。
「皆!獲物は今、天の御遣いの策によって罠にかかった。ここに集うのは我が理想に殉ずる同志だ!この中には濮陽出身の者もいるだろう。その濮陽を荒らした賊を討ち果たす時が来たのだ!では問う、我ら同志の故郷を汚したあの者たちを許せるか!」
「「「否!!!」」」
「ならばこれは雪辱戦である!!!この曹孟徳も同志のため一人の鬼となろう。全軍!濮陽城を奴等の血で染め上げよ!!」
「「「おぉー!!!」」」
まさしく鬼気迫る勢いで攻勢を仕掛ける曹操軍に対し、既に場外へ脱走兵が出始めている黄巾軍では戦と呼べる物ではなかった。
まるでイナゴのように全てを飲み干していく様は、黄巾党の中で最も恐ろしい軍として認識されたのはそう遅くはなかった。
「さて、戦が始まってから開けろと言われたものには、どんなことが書いてあるのかしら?」
袋の中から一枚の紙を取り出した華琳はそれを見た瞬間、笑みをこぼした。
「ふふふ、成る程ねぇ・・・やってくれるじゃない、この代償は首でいいわよ一刀」
時を同じくして関羽隊、夏侯淵隊も門が開くのを確認していた。
「どうやら、そちらの軍師の策は的中したようだな」
「・・・そう成れば良かったのだがな」と一枚の紙を関羽に見せた。
「これは!」
「どうやら、一枚食わされたようだ。なら、この芝居は続けねばなるまい」
「あやつめ!」と関羽は顔を赤くした。
「その怒りは目の前の敵にぶつけてくれると助かる」
「そうさせてもらおう・・・。劉玄徳が一の家臣、関雲長いざ、参る!!」
そして、一刻も経たずに敵将程遠志が場外へと姿を表した。
「南から夏侯惇、張飛が侵入、そして敗走兵を逃がさずに包囲する曹操。東には劉備が包囲網。そして北にやはり潜んでいた関羽と夏侯淵。この猛者から逃げるのは骨がおれる。だが、貴様からは逃げるのは容易いぞ?」と目の前を防ぐ十字の旗の下に立つ男に話しかけた。
「いや、実に見事だ。称賛を送るよ程遠志。君は確かに曹孟徳を破った」と拍手をする北郷だったが、その顔には笑みが浮かんでいた。
「何がおかしい?」
「だからいっただろう、君は確かに曹孟徳を破った。俺が曹孟徳に為りきり考えた策だ」
「為りきる?貴様が他人に似せても所詮は貴様ではないか!」
「そうだな。だからこそ、お前は俺を破れない」と北郷は剣を引き抜いた。
「侮るなよ小僧。わしと貴様では踏んできた場数が違うわ!」と馬で駆けてくる程遠志を北郷は剣を肩に担いだ。
「思春、借りるぞ」と呟くと、一瞬にして程遠志の視界から消えた。
「なっ!どこに行きおった!」と戸惑った瞬間、近くで声が聞こえた。
「鈴の音は黄泉路へ誘う道しるべと心得よ」
それが程遠志が聞いた最後の言葉だった。
北郷は消えたのではなく、程遠志のすぐ脇に伏せていた。
その全身のバネを駆使し、程遠志の首に刀身を振り上げ吹き飛ばした。
「敵将程遠志、北郷一刀が討ち取った!!」
幾多の世界を巡り、やっと習得した神速の剣技。
オリジナルには程遠いが、初見で見破れるものはそう多くはない。
それも、油断している敵なら尚更だった。
程遠志が討たれたことにより、付き従ってきた少数の人間が混乱し始めた。
するとその中から、麦わら帽子を被った少女、周倉が姿を表した。
「あらら、程遠志の野郎殺られてやがるよ」と笑ってる彼女に回りの兵は動揺を隠せなかった。
ここにいるのは程遠志の側近だ。
勿論彼女が裏切っている事を知っている。
「あんたが心音(廖化)の言ってた御遣いか?」
「そういう君は周倉でいいのかな?」
「質問を質問で返すなよ。まぁ、合ってるさ。それじゃあ、あたいがどういうやつか聞いてるだろ?」と笑った瞬間、自身の得物である薙刀、水龍を北郷に降り下ろした。
それを当たり前のように受け止め、更に追撃を入れるため凪ぎ払った。
「はっ!こりゃいい。こんだけ打ち込めるやつが男でいたなんてね」と柄の部分で受け止めた周倉は更に斬激の速度を上げ、振り回した。
「あんまり長引かせてほしくないんだけどな」とまたもや難なく受け止めた北郷に対し、周倉は楽しそうに笑った。
「そりゃ聞けない相談だな」
「そうか。なら、悪いが寝てもらうよ」
「はっ!やれるもんならやってみな!」と最大限の力を込めた一撃が振り落とされた。
だが、北郷は、剣を逆手に持つとその軌道をずらし、相手の懐に入り込むかのように剣を手放し、そのまま相手の顔面に右ストレートを浴びせた。
まるでボクシングのクロスカウンターのように吸い込まれていく拳は周倉の顎にクリーンヒットした。
「ちっ!(不味い、体が動かない!)」と顎に当たった振動で脳を揺らされ思うように体が動かなかった。
その隙をわざわざ逃すつもりはない。
「悪いがチェックメイトだ」と周倉の首に手刀を打ち込んだ。
周倉が倒れると、敵は完全に戦意を損失した。
ましてや逃げられない状況で指揮官も失えばもう投降するしか道はなかった。
それから約二刻ほどで曹操軍は濮陽城を占拠した。




