手ノ中ノ月
言った。
言っちゃった。
言ってしまった。
中学の時から好きだったあの子に……。高校三年の終わりになって、とうとう想いを告げた。
中学生一年のある日、授業も聞かずに窓際でぼんやりとグラウンドを眺めていたら、見つけてしまったんだ。
カキンという小気味いい音を立てて打った球がフェンスを越えていくのを見ながら、結わえたポニーテールを揺らして眩しい程の笑顔を振り撒く彼女の姿を……。
それが始まりだった。
中学の時は、悲しいかな同じクラスにはなれずじまいだったが、高校生になって同じクラスになれたときには、嬉しくて心の中で小さくガッツポーズをした。
それでも話し掛けられなかった。
彼女の回りには、いつも誰かしらいる。
それは彼女の男女の区別なく親しく接する性格があるからだ。そのせいで、勘違いした男子が告白したりも少なくない事だ。
だが彼女は、その告白を一度としてOKしたことはなかった。
しかも即断られたらしい。
そんな彼女がだ。
一度も話したことのない僕の告白を聞いて言った台詞が、「考える時間を貰ってもいいかな?」ときた。
これは勘違いしてもいいのではないだろうか。
……だめだ落ち着かない。こんな時はあの場所にいく。
僕の家からそれ程遠くない丘の上。
僕は何かある度にそこへ足を運び、空を見上げる。
今日は満月……。
月の光は丘に寝そべっている僕を煌々と照らしてくる。
今日の満月は大きく見えて、手の平を翳すと指の隙間から光が溢れる。
僕はそのまま手を握っていた。
そうすることで、
自分より大きな存在を手におさめることで、
勇気を持たせようとしていた。
「あれ? 君は……」
その時聞こえた声。
僕が中学の時から憧れていた彼女の声。
「こんばんは、だね」
何と言う偶然。
聞けば彼女の家もこの近くで、彼女もよくここに来るのだそうだ。
僕は起き上がって彼女と向かい合う。
「明日学校で言うつもりだったけど。うん。いいムードだしここで言ってもいいかな?」
いきなりでびっくりしたし、内心かなり焦っている。
しかし僕は小さく頷いた。
「ありがと。それじゃ、返事をします」
彼女は真面目な表情だ。
さぁついにこの時がきた。
僕の拳は握られたままだ。
この『手ノ中ノ月』は、今の僕に勇気をくれている。
結果がどうなったのか?
それはこの月が知っているだろう。