弐零話 相談するだけならタダ。一人で考えるよりは行ってみよう
よし! 本格的に復活しました!
と言う訳で今回は二本立てですので!
零ちゃんの看病(?)が終わったあと、夜になってしまいましたのでラネットさんと宿へ戻りました。
時間からしてもう就寝時なのですが……
「うう……う……」
「ラネットさん。大丈夫?」
オーリエ村の宿屋で二人部屋でのことです。
片方の布団の上でラネットさんは頭を抱えてうなだれていました。
原因はおそらく……
「どうしよう……またハクレイを怒らせちゃった……」
……零ちゃんが自分のせいで怒ったと思ったからでした。
何で零ちゃんが怒ったのかというと……
「まさかお粥の中にまたひとつ入れちゃいけない薬草が入っていたなんて……」
「ちゃんと味見をすればよかったね」
「そうね……次からは気をつけるわ」
……もしかして。
「ラネットさん……もしかしてあまり料理を作ったことはないの?」
「え…………?」
ラネットさんが驚くような顔でこちらを見てきました。
特に確信じゃなく、なんだかそんな気がしたのですが……
「そ……そうよ……」
しばらくの沈黙の後、ラネットさんはあっさりと認めてしまいました。
「恥ずかしい話、調査隊のときもそういうのは皆ほかの仲間に任せていたから……」
「ラネットさん……」
何だかラネットさん、いつもより落ちんこんでいます。
でも…………
「大丈夫だよ」
「え?」
「零ちゃんだって怒ることはもちろんあるけど、いつまでも持ち越すようなことはしないから」
「そ、そう……?」
「うん。だって……一度そういう事があったから」
「そういう事?」
「うん」
確かあれは……駆け出しだった頃でしたね。
「昔、私が銃の扱いに間違えて、零ちゃんに向かって暴発しちゃった事があったんだけど……」
「え……! 暴発って、あんたが持っている武器って…………!」
「うん。飛び道具だよ」
ラネットさんには一度銃について説明してましたから、理解はしていると思います。
「もしかして、ハクレイがそれで大怪我を……!」
「ううん。ただのかすり傷だったからたいしたことはなかったよ」
「え?」
「でも零ちゃんはね、あることに怒ったの」
「それって……」
あの時零ちゃんは本気で激怒していました。
その原因は……
「『なにするんだ! 俺のジャージが少し破けちまったじゃねえか!』って」
「いや、怒るところそっち?」
あの時は……ちょっと怖いと思いましたね。
「でね、あの後私は反省して、破けたところ裁縫して直したら許してくれたの。その上次の日にはいつもと通りになっててくれたの」
「……それは根に持つにしてはどうかと思うけど……」
でも、怪我してたら大変だと思ったのですが零ちゃんは『それは別にいいや』と言ってました。
「だからあんまりそういうことは気にしないで」
「……わかったわ。ありがとう、クロチヨ」
と、ラネットさんは気を取り直したのかこちらに顔を向けたのですが……
「ところで……ひとつ聞きたいことがあるんだけど」
「え? なに?」
なんだか改まった様子で私に何かを訊くようです。
「あんたら……“迷い子”だよね?」
「え? うん。そうだよ」
はっきりとは言ってませんでしたけど……
「じゃああんたらって……元の世界に帰りたがっているの?」
「? そうだよ。そのために風精族さんの里を目指しているのだけど……」
「そう…………」
ラネットさん? 突然どうしたのでしょうか。
「まあ、薄々はそうじゃないかと思ったんだけどね。だとしたら……」
「?」
何だかラネットさんがなにやら考え出して……
そして……
「クロチヨ。ついて来て」
「え? ついてきてって、どこに?」
「ハクレイの所よ」
零ちゃんの所にですか?
もう眠っているのかと思いますが……
「ハクレイとあんたに……謝りたい事があるの」
「?」
それって先ほどのお粥のことでしょうか?
「……言っておくけど、お粥じゃないわよ」
「あれ?」
何でわかったのでしょうか?
「まあ……ちょっとね」
「?」
なんだかよくわからないですけど、とりあえず私はラネットさんについていったのでした。
2
そんなこんなで千代とラネットの看病が終わった後の夜。
今、千代とラネットはここにいない。
「しっかし……今日はいろいろとあったな」
説教されるわ、泣きつかれるわ、麻酔スプレーかけられるわ、挙句の果てにはお粥食べてぶっ倒れるなんて……
「……今日一日ろくに看護されてないような……」
二人が作ったお粥を食べてなぜか寝てしまった俺。
あの後わかったがお粥にはもうひとつ間違えて買った薬草、『爆睡草』が入っていたようだ。名前からしていかにも……
ってか、ちゃんと味見しろよ。
「はあ……」
しかし、静かになるとそれはそれで……
少し考え事をしてしまうな。
「……思えばこんなふうに看病されたのは初めてだな」
うん、特殊すぎる状況を除いて。
こんなふうに看病されるとはな……
「入院するほどの怪我ってのはそうそう訪れてないからな」
散々な目にもあったけど……
ジャージを直してくれた千代。
説教しつつも本当は心配してくれたラネット。
結果はどうにしろお粥を作ってくれた二人。
そして、もっと自分たちを頼れと言ってくれた。
あはは、まさか苦手苦手と疎遠した女に看病されるなんてな。
まあ……悪くないもんだな。
けど……こうじっとしてられるのも……
その時、
コンコンッ
「!」
「零ちゃん。まだ起きてる?」
「千代?」
こんな夜遅くにいったい……
まあいいか、たくさん(強制的に)寝たんだし。
「まだ起きてるけど、どうした?」
「入っていい?」
「ああ、いいぞ」
「うん。じゃあ入るね」
ガチャ
と、千代がドアを開けて部屋に入ってきた。
その後ろから……
「あれ? ラネットもか?」
千代の後に続き、ラネットも部屋へ入ってきた。
「零ちゃん。具合はどう?」
「ああ、大丈夫。結構よくなってきた」
まあ、精神的には微妙だったが……
「それと、お粥の事は御免ね。ちゃんと確認すればよかった……」
「いいって。結局美味しかったしよ」
あの後、あのお粥はスタッフ(俺)が残さず食べました。
「それで? ここに来たのは具合の確認?」
「ううん。違うの」
「え? じゃあ一体用件は……」
「私の方よ」
するとラネットはここで俺の前に来て言った。
「ねえ、ハクレイ。あんたって間違って幻界に来たんだよね」
「ん? ああそうだけど……」
ハッキリとは言ってないがまあだいたいそうだろうと察していると思うが……
「それであんた、元の世界へ帰るために風精族の里の“月の口”を目指しているのよね?」
「あ、ああそうだが……」
……たしかに当初ではそのために水妖族の里から出て行ったんだが……
「いや……少し前まではそう思っていたんだけど……」
「え?」
今では……………迷っている。
このまま帰ってもいいのか、と……
「それっていったい……」
ラネットが俺の発言を追及しようとしたが……
「零ちゃん」
「ん?」
そこに千代が割り込んできた。
その顔は……心配している顔である。
「なにか思い悩んでないかな?」
「…………」
……悩み。
そうだな、これはれっきとした悩みだな。
隠し事はできないな。
「零ちゃん?」
「ああわかった。隠し事はしねえ。ってか、お前にも関わってることだしな」
「え?」
じゃあ、話すか。
「……千代。それにラネット。聞いてほしいことがある」
「何?」
「なによ」
「それはな……」
俺は昨日(なのか?)の深夜に昼江がここに現れたことを言った。
「昼江さんが……!?」
「…………誰?」
「あいつも“迷い子”になってここにきているようだ」
千代も昼江の事は知っている。
任務で何度も会ったことがあるから、殺し屋としての昼江だけだがな。
「本当は一刻も早く元の世界に帰らないといけない」
「……………」
あいつが言っていたこと。
獣人族か鳥人族が人間攫って奴隷にしていること。
そして……
「しかし、あいつが殺し屋をやめる条件。それはここに残らないと果たせない……」
つまり、帰るか、ここに残るか。
その二択しか選べない。
普通ならここで早く帰って所長に俺達は無事だって報告しないといけない。
だが、一度帰ると再びここへ来るのは不可能に近い。
それに、昼江が殺し屋をやめさせる……最後のチャンスだ。
これを逃したらもう……あいつは……!
「零ちゃん。それで迷ってるんだね」
「………………」
「ああ、いったいどうすればいいんだ……」
千代だけ帰すって手があるが得策じゃない。
どこに出るかわからないんだ。もし外国にいきなり一人ぼっちで出てきたら大変だ。
それ以前に千代はそれを許さないだろう。
「どうすれば……!」
「零ちゃん」
「ん?」
千代は俺の葛藤に対してこう答えた。
「なんだか、いつもの零ちゃんじゃないよ。大丈夫?」
「千代……いつものってなんだよ……」
「だっていつもの零ちゃんだったら『だとしても俺はそいつ等を護るんだ』って感じに言わないの?」
「だけど! 所長はそもそもあの任務に俺達を送り出すこと自体躊躇っていたんだ! その状態で行方不明なんて知らされたら……!」
所長はいつも俺や千代を一人で任務に行かせることはしない。
ほとんど千代と一緒で、ときどき他のメンバー同伴があった。
やっぱり、まだ若い俺達に単独任務は心配なんだろう。
「だから早く……帰らないと……!」
俺達は青江さんにこれ以上心配させることは……!
「零ちゃん」
すると千代は優しげな表情で言った。
「大丈夫だよ。そんなに悩まなくてもいいと思うの」
「……! いったいなにが大丈夫なんだ!」
「それでも青江さんは私たちを信じていると思うから」
「信じてる?」
いったい何でそう言えるんだ……?
「だって……
……青江さんならこう言うと思うよ。『儂の事より護ることを優先しろ』って」
「!」
それは……
確かに青江さんならそう言うかもしれないが……!
「それに、零ちゃんだってこう言ってたよ『同業者よりも護衛対象を気にしろ』って」
「……!」
……そうか。
そうだよな。失念してたな。
どんなときだって所長は弱い立場の人を護ってたんだな。
所長の心配をして護るはずの者を護らないなんて……
「意味のない……悩みだったな」
「ううん。私もつい言ってしまったけど、それでも青江さんは私たちのことを心配してると思うと……」
「……じゃあ早く終わらせて……帰らないとな」
信じよう。
なんだかんだで俺達をイギリスへ送ってくれたんだ。
所長が俺達を信じていることを……信じよう。
「千代」
「はい」
「決めた。俺は護る。奴隷にされた人間を……」
そして……昼江を……夜を……
「今度こそ護る!」
「それでこそ零ちゃんだよ」
千代……
「千代。俺の我儘ですまないが、付き合ってくれるか?」
俺の申し出に千代は……
「いいよ。零ちゃんについていく」
「千代。ありがとう」
「ううん。私もその人たちの事……護りたいから」
「千代……」
「それが私達、用心棒だから」
「ああ……」
別にこれは依頼でもないし、頼まれたことでもない……
だけど、たとえ主観的な決め方であれ……自分からであれ……
俺達は……護りたい人を護る。
物理的であれ何であれ……護るんだ。
それが……俺が目指す用心棒というもの……
「……あの、話の内容がよくわからないんだけど」
……ん?
「……ラネット」
「いちおう私も、ここにいるんだけど……」
……いかんな、所長とか昼江とかこいつには解らないんだったな。
「……要するにあんたは、もう少し幻界に留まるという事なのね」
「ああ、そういうことだ」
「…………そう」
なんだかラネットが安堵しているようだけど……
……そうだな。
「ラネット、頼みがある」
「なによ」
「できる限りでいいから、俺に手を貸してくれないか?」
「え……?」
まだまだ俺達はこの世界について知らないことは多い。
残念だが、俺一人、千代と二人でも、できることに限りがある。
だからこそ、仲間は多い方がいい。
もちろん無理は言えないが……
「悪いが俺は……このことに一人で解決できるほど……」
「待って」
俺が続けようとした言葉をラネットは遮った。
「それ以上は言わないで。あんたはいつだってやることなすこと一生懸命だから、力がないなんて言わせないわ。たった数日だけど、あんたの懸命さはよく伝わっているわ」
「ラネットさん……」
「お前……」
「ま、だから無茶なことだってするんだけどね……」
「う……」
そう続いた言葉に俺は少しだけ後ろめたい気持ちになる。
あ、あの時は仕方がなかったんだよ……
「……わかったわ。私にできることなら何でも言って」
え?
「ラネット……いいのか?」
「いいのよ! ……少し前にはもっと頼ってって言ったばかりだしね」
「……ありがとう、ラネット。恩に着るよ」
「……! い、いいわよ別に! 私自身、人間をさらうなんて恥知らず、放っておくわけにはいかないし!」
「ああ……」
ラネット……本当はこっちはこっちで大変だろうに……
「じゃあ……千代」
「はい」
「それにラネット」
「な、なによ……」
「本当に……ありがとう」
改めて俺は目の前にいる二人の仲間に感謝の言葉を述べた。
すると二人は……
「……うん!」
「まあ……当然の事よ!」
片方は笑顔でうなずき、もう片方は力強く言ったのであった。
……世界は広いし、不思議なことは数多いし、やることはたくさんあるけど……
所長、必ず帰って報告しますので、もう少し待ってください。
「ちなみに……ハクレイ。クロチヨ」
「ん? なんだ?」
「なに? ラネットさん」
「実はあんたらが元の世界に帰るための“月の口”の事なんだけど……」
「あ? それがいったい……」
「……実は風精族の“月の口”は実はもうすでに開いていてもうすぐ閉じるんだけど……」
「「…………え?」」
「……それで本当はそのことを謝りに……」
「もしかして私たちがあまりにも長くここに留まりすぎたから……」
「…………俺のせい?」
「え? 別にそんなわけが……」
「……………」
「……それで、今日はそれを伝えに来たんだけど……」
「……………」
本当に意味のない悩みだったな。
「はあ……まあいいか」
悩んでも仕方がないしな。
……また誰かが迷い込まないといいんだが…………
3
同時刻。
ここは、どこにあるかはわからない洞窟内の事。
「アローン将軍! 里への偵察者が戻ってまいりました!」
「うむ! 通せ!」
「はっ!」
洞窟内にいたのは武装をした大量の火蛇族の者たちが、この細くて狭い通路のような洞窟内で列をなして待機していた。
その中でもひときわ強力そうな火蛇族の男が洞窟の向こうから現れた火蛇族の報告を聴いていた。
「結果は?」
「はい! 里の兵士達は案の定、ほとんどの者が外の村の方へと警護に向かっています。奴ら、すっかり外側のみに対して厳重に警備しております。攻めるのは今かと……」
「そうか、ご苦労。元の位置に戻れ」
「はっ!」
そう言って偵察係はまたどこかへと行ってしまったのだった。
「カルリトロスはうまくやってくれたようだな」
「いえ、村は制圧できなかったとのことですが……」
「いや、外側に対する警戒が起こればそれでいい」
将軍と呼ばれた男は今が好機と目を光らせ、攻撃的な笑みを浮かべていた。
「残る準備ももうすぐか……おい!」
「はっ!」
将軍の言葉に一兵士が前へ出た。
将軍は兵士に命令する。
「俺は先に行って出陣のタイミングをうかがう。その間にお前は後ろで眠っている人間を起こしに行け」
「はっ!」
将軍はそう言って向こうへと行ってしまったのだった。
しかし、命令された一兵士は……
「……人間?」
どうやらわからないようだ。
疑問する一兵士に……周りの兵士達が答える。
「おい! 知らないのか! 最近雇った人間の殺し屋だよ!」
「え? 人間を!?」
「待て、こいつは最近入った奴だ。解らないのも無理はない」
「とにかく、後ろに人間が寝ているんだ! 起こしてこい!」
「は、はい!」
そう言われ、一兵士が起こしに行ったのだが……
「……待てよ。そう言えばあの人間の事を話したか?」
「……いや、知らないと思うが……」
「……! まずい! このままだと……!」
「「「あ!」」」
そう言って何人かは人間を起こしに行った火蛇族の男を追いかけたのだった。
4
「はぁ……奴隷じゃなく人間を雇うなんて……」
一兵士はため息をつきつつも列の後ろにいるであろう人間の元へ向かっていた。
「いったいどんな人間だろうか?」
と、疑問に思いつつも向かっていると……
「お、あれか!」
そこにいたのは……
「ん? なんだ?」
そいつは黒のロングヘアーに黒のロングコートに黒のグローブに黒のズボン、と全身黒ずくめだった。
その上、男の左目には黒の眼帯がしており、左手には納刀した黒い刀が握られていた。
ただでさえ黒ずくめの格好に驚いたのだが……
「な、なんつー姿勢で寝ているんだ……!」
男は正座のまま眠っており、背筋も伸ばした状態だった。
「ま、まあいい……早く起こさないとな」
そう言って一兵士が男を起こそうと近づいたのだが……
「待て! そいつに近づくな!」
「え?」
しかし、時すでに遅く、兵士が手を伸ばせば届くくらい男に近づくと……
「……やめろ……」
「ん?」
「……来るな!」
「しまった! くっ!」
後から来た兵士は起こそうとした兵士の首根っこを掴んで引っ張るのと同時に……
シャリン!
「?」
突然の鍔鳴りの音。
そして……
「……!? ぎゃああああああああああああ!?」
兵士が悲鳴を上げた。
何があったかというと……
「おい、大丈夫か! おい!!」
起こそうとした兵士のお腹が鎧ごと横一文字に深く斬られたのだった。
後ろの兵士が引っ張ったことにより真っ二つは避けられたものの……
「う、うう……!」
「なんてことをしたんだ! 貴様!」
「……近づくなと……言っただろう……」
男はまだ眠たそうだったが正座から立ち上がると……
「……時間か……」
「……ああそうだよ。とっとと行け!」
「……ああ……」
男はわざわざ兵士から避けるように離れながら向こうへ行ったのだった。
「将軍も、いったい何でこいつなんかを……!」
そう言いつつも兵士も後を続いたのだった。
将軍は火蛇族の兵士たちを集めた。
そして、その集団の前に立ち、堂々とした姿勢で確認を取る。
「さて、時間だ! 各自聞きたいことはあるか!」
将軍がそう言うと兵士の一人が……
「あの、ひとつよろしいでしょうか?」
「うん? なんだ。言ってみろ」
「はい。その……今自分たちは里を離れて大丈夫でしょうか?」
「なに? 大丈夫とは?」
「その……“奴ら”の事です」
兵士の口から“奴ら”という言葉が出ると、他の兵士達がざわめきだした。
「奴ら……奴らがどうかしたと言うのだ?」
「いえ、あの……実はカルリトロス将軍がやられたのも奴らの仕業という噂も……」
「なに?」
いったいどういう事なのか、カルリトロスが死んだ原因はこいつらは知らない。
「あいつは間抜けにも風精族の一兵士に打ち取られたのではないのかね?」
「いえ、実はその……密かに風精族のある村で確認したところ、遺体を確認した兵士自体、よくわからないと……」
「ううむ……」
奴ら、とはいったい何者か。
それを知る将軍は額に手を当てて考え事をしていた。
「確かに最近、軍の内部に怪しい動きをする者がいるとの報告があったな……」
「ど、どうしますでしょうか……このまま自分たち『皇帝派』が里を離れては……」
兵士は本当に心配した表情で言うが……
「放っておけ。所詮下位の連中にできることじゃない」
将軍はバッサリと切ったのであった。
「たとえ軍の中に奴らの味方がいたとしても……」
更に将軍は不安を取り除く決め手の言葉を言う。
「我らが皇帝様の前では、なんの脅威にもならないのだから」
それを聞いた兵士たちは……
「そ……そうですね! いちいち心配する必要はありませんね!」
「そうだ! “奴ら”など恐れるに足らん!」
「カルリトロス将軍が敗けたのも、結局は将軍自身大したことはないようだったし……」
不安は取り除かれ、一斉に鼓舞しだしたのだった。
将軍はもうひと押しと続ける。
「第一、この作戦の好機を逃すこともまかりならん! 奴らなど、わざわざ気に掛けることなどないのだ! さあ他に不安に思う者があるのなら前に出るといい!」
将軍の激励に兵士たちは誰も前に出ない。
つまり……
「無いようだな! 無いなら各々準備はできているか!」
「「「おおぉ―――――!!」」」
「ならばよろしい! このようなチャンスはそうそうない!」
将軍は確認を終えると最後に……
「これより、作戦を開始する!」
「「「おおぉ――――――!!」」」
高らかにそう宣言したのだった。
奮い立ち、声を上げる兵士たちの後ろで……
「………………」
黒い恰好の男は将軍のみを見つめ続けているのだった。
この男は……




