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 弐話 いきなりピンチ!?

初めはちょっと別の話が……

 ある夜中の町にて。暗い空と電灯だけの明かりが頼りなさ気に道を照らし、ただ暗闇よりもより不気味な雰囲気を醸し出している。

 その中のある一つの所、静けさとは程遠い音が夜空にこだました。


「よし、一丁上がりっと」


 手をパンパンと叩きながらそう言ったのは、白いセミロングの髪をカチューシャで後ろに流したジャージ姿の少年。

 手には殴った跡、脚には蹴り跡が残るが、少年自体に怪我はなくせいぜい衣服の乱れが少し目立つ程度にしか見られない。


「うう、痛てぇ」

「こいつ、強い……」

「おふ、おぅ」


 少年の足元にはチャラそうな格好やガラの悪い容姿のいわゆる不良たちが倒れている。

 むしろこの者たちの方が怪我を負っている。とはいえ自分が起こした行動の自業自得さゆえの怪我ではあり、この場にいる者ならば誰も同情されはしないことになるだろう。

 疲れと負傷が相まって不良たちの意識は深く沈んで行ってしまった。


「さて……」


 不良たちが動かないことを確認すると、少年は少し離れたある人物に目を向けた。

 視線の先、その人物は夜の街には似つかわしくない容姿の人物だ。

 和服姿と長い黒髪が目につき、なによりも幼く小さい美少女が周囲から浮世離れして佇んでいた。


「大丈夫か? こいつらに何かされてないか?」

「……………」


 心配した少年の言葉に少女は黙っている。

 恐怖故、とは思われたがその割には落ち着いている。それが少年にとって不思議でならず、自分の事は棚に上げていったいどういう事なのか少女に問いただした。


「まったく何でこんな深夜に外を出歩いているんだ? 親御さんも心配してるんだから……」


 少年がそう言うと、少女が不思議そうに問いかけた。

 今の言葉に何が不思議なのかさっぱりだが、黙って少女の言葉を聞く事にする。


「……どうして助けたのですか? 私の身体が目当てなので?」

「え?」


 その結果、いきなり何を言われたのか少年は理解するのに数秒かかった。

 少女は続けて言う。


「お母様がおっしゃってた。男はみんな下心で動いているから無償で助けないって」

「おい、それは偏見じゃ……」


 恩着せがましくするつもりはないがいきなりそんなことを言われると若干へこむ。


「それに、何で一人で大勢に立ち向かったのです?」

「は?」

「お母様はおっしゃってました。男ってのは集団だと強がるのに一人じゃ何もできない存在だって」

「おいおい……」


 呆れたように頭を振る少年。知識が偏り過ぎてなにか崩壊しそうだ。この子には対人経験があまりないという事なのだろうか。

 いろいろと変な気分になるが、一応少女の問いには律儀に答えるとする。


「俺はまあ、なんだ。助けるため……いや、護るために強くなろうとしてるんだ。こんな連中には負けないためにな」

「護る?」

「そう。護る、だ。それに下心とか言われても君の事は知らないし」


 少年ははっきりとそう言った。正直、誰にでも助けると言う訳ではないし、この状況を少女が望んでいるならばむしろ余計なおせっかいかもしれない。

 しかし、先ほどの状況を見てある記憶がめぐり、どうしても助けなければならない理由が少年の中に起きたからだ。


「だからさ、さっさと帰った方がいいぞ。お前の言う母親が心配して待っているかもしれないしさ」

「…………お母様は死んだの。数日前に」

「………そりゃ、すまなかったな」

「え?」

「いや、そう言わせてしまってすまなかったと」


 少年は必要以上に少女に接近しようとはせず、一つ戒めるように言う。


「どちらにしても自分から危険なことに踏み入れるようなことはするな。お前を心配する人はいるし、大切に想っている人はいる。お前がひどいことになったら、お前を大切に想っている人は哀しむんだから」

「………あなたって不思議ね。お母様が言ってた“男”と何か違う感じがする」

「?」


 不思議そうに首を傾げる少年。少女の言葉の意味が解らないのだろう。

 少年も無理に言葉の意味を訊こうとはせず、別に少女がここにいる理由を訊いた。


「けど、何で一人でこんな夜中に出歩いているんだ?」

「それはね。さみしいから」

「さみしい?」


 帰ってきたのは不思議な理由だった。むしろ家の方が安心感があるから逆の意味ではないかと疑問に思われる。


「私、少し前まではお母様と二人で暮らしてたの。でも、お母様が死んでから家には私一人になって…、お金は問題ないの。でも、私は一人だから…」


 ここで「父親は?」なんて質問を少年はしない。

 自分から家を出て暗闇の街に出るならば、言葉になくともいろいろと察せられる。


「学校には行ってるのか?」

「ううん、通信教育だから友達は……」


 そうか…、と少年は呟いた。もしかしたらこの少女は自分とは別の、しかしどこかに通った奇妙な環境を生きた身ではないのか。

 そう思い少し間を開けて少年が口を開く。


「だったら俺と一緒に来ないか?」

「え?」

「俺んとこはビルに住んでいるんだが、部屋が空いていてな。それに仕事場もあるからよかったら働けるように所ちょ……上の人にお願いするし」

「えっと……」


 本来なら少女は「いいえ」と答えただろう。こんな怪しい誘いだけでなく、母親から教えられた“男”についていくのはもってのほかだ。それは少女意思とは関係なく『そうであるべきだ』という縛られた生き方だからだ。

 たとえ働けなくても、母親の残した遺産で一生は難なく暮らせる。孤独であることが付きまとう条件に、少女は生きていけるのだ。

 しかし少女は……


「いいですよ。あなたについていきます」


 そう答えたのだ。

 少女はこの少年の事を不思議に思った。なぜなら少年から自分を見る視線が不思議と思ったからだ。

 前に少女は「男とは皆、女を邪な目で見るもの」だと母親から教わった。憎しみと怒りから歪んだ母親の怖い教えからだ。

 現にそこに倒れている男たちはそうであった。見かけたら話しかけられ、こちらの意思とは関係なくただなされるがままとなる所だった。

 それなのにこの少年は少女の事をそんな目で見ない、とても澄んだ目をしていたように見えた。それは男からも母親からも感じられない、どこか安心感のある不思議な瞳に感じられた。

 だから、この少女はこの不思議な少年に対し興味を持ったということだ。

 そして何よりも、


(お母様、ごめんなさい。私は……独りなのが何よりも……嫌だから)


 母親が死んでからの少女は孤独だった。引き取ってくれる親戚はいなかった。

 人を知らない。人に触れられない。

 このまま一人で生き続けるのなら……そう思い外へ出たのだ。


「あっ」


 少年は今さら思いだしたかのように自己紹介をした。


「俺は金斬かなぎり白零はくれいだ。よろしく」

「私は三咲さんざき黒千代くろちよ。よろしくね」


 これが、後の用心棒、金斬かなぎり白零はくれい三咲さんざき黒千代くろちよの初の出会いであった……




――――――――――――――――――――――――――――――




 ああ……何であのことを思い出しちまうのかな?これは走馬燈と言うやつか?

 はは、懐かしいや。四年は前だったな。

 まったくあの言葉、あの頃の女性恐怖症である俺が言う事じゃねーだろ。

 けどよ、それくらい千代が不思議な娘ってことだ。

 女性特有の陰湿さや理不尽さを感じさせない不思議な娘だったなあ。

 親友をいたぶったあいつらとは……


 ああ、それにしてもやばいな。このまま沈んで行くのか、俺?


(ん?)


 あれは……

 千代!?

 なんで千代までここに!?


(零ちゃん! ここにいたのね!)

(千代、助けに来てくれたのか! 俺はうれし……)


 しかし、

 なぜか千代の方がずんずんと沈んでいく。


(って、何でそっちが沈んでいくの!?)

(零ちゃん。なんだか浮かばないよ……)

(浮かばないって、人間は普通浮くように……まさか!? ……くっ!)


 俺は沈んでいく千代の腕を掴むと、


(このっ……!)

(きゃ……っ)


 そのまま千代を抱き留めて必死に足を動かして浮上していく。

 正直、死ぬほどつらいってか、初めからそうすればよかったんじゃ……


「ぷはっ!」

「かはっ!」


 とにかく水面に顔を出すことはできた。

 さて、あとは…


「れ、零ちゃん……?」


 俺は確認する

 両手で抱き留めた女の子の感触

 それは思ってた以上に……


(やっぱり……)


 ゴツゴツしてた。


「千代。いったいどんだけ仕込んだ・・・・んだ?」

「え……! えっとね、危険度が高そうだったから……全部」

「そんなの沈むに決まってんだろうがぁ―――――――――!!」


 いくら人間でも重たい物を持ってちゃあ沈むって!

 と、俺はどうにか上がるところを見つけるために周りを見渡そうとした。

 その時だ、


「動くな!!」

「「!?」」


 突如周りから命令文が飛んできた。


「いや、動くなって動かなきゃ沈むだろ……」


 ん?

 俺は気づいた

 どうもここはロンドンじゃないってことにだ


「え……?」


 周りを見てみるとそこは

 ロンドンの街並みではなく、何やら洞窟のような所だった。

 それは湿っぽさを感じさせない水場だらけの所で、魚やサンゴがたくさんいた

 だが周りには……


「!」


 何やら体のいたるところから魚のヒレを生やした青い肌の人間のようなものが銛を俺達に突き付けていた。


「へ…………?」


 あまりにも突然の変化に俺は疑問をせざるを得ないのだった。

ちなみに走馬灯は灯篭の一種であって、現象そのものではありません

また、息を止めて持つのは平均で一分だそうです

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