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壱肆話 準備が不備だからこそ真価は発揮される

 クックックッ! まったく運がいい。

 風精族シルフィの領地を奇襲……もとい、強襲するのに参加してもらえるとは……


 先日、調査隊が国境砦までやって来た時は冷や冷やしたもんだ。どうやら不審に思われたようだ。

 ここで調査隊を始末すればますます不審がられるが、国境の異変に気づけばなお拙い。

 だからすべて始末しようとしたが……


「まったく……役立たず共が」


 あの風精族シルフィの小娘を追いかけていた部下共が戻って来なかった。

 つまりあの小娘は逃げられ、俺達の事を報告したかもしれない。

 こうなったら後には引けない。

 水妖族オンディーヌまで駆けつける前にまずは……


風精族シルフィの村、いただくぜ……」


 クックックッ、楽しみだ。

 こんなチャンスはそうそうないもんな。


「おい人間! お前にもきっちりと働いてもらうぞ!」

「わかったわ♥ まかせてね♥」

「………ふん!」


 まったく生意気な人間だ。

 ただでさえ人間である上に奇妙な恰好しやがって。


「まあいい。お前等! そろそろ目的地に到着する! 武器の用意はできてるか!!」

「「「おお―――――!!!」」」

「なら行くぞ! 我らの栄光のために!」

「「「おお―――――!!!」」」


 クックックッ、待ってろよ。風精族ぎせいしゃたち

 クックックックックッ……


「ん?」


 なんだ? 何やら前方に煙が……



       2



 まったく、こんなに早く来るとはな……

 さて、こうなった以上急いで準備したこいつを使わないとな。

 と、言う訳で。


「そう! そのままか強火でさっとかき回して……よし! いい感じなって来たぞ!」

「本当? 零ちゃん」

「ああ。この薬草がしんなりしたところにこいつを掛ければ……」

「ってあんたら何してんのよ!」


 と、俺達にツッコミを入れるラネット。


「あう……」


 千代には優しく……


「痛っ!?」


 俺には厳し……


「ちょ、ラネットなんで俺の方は強いの!?」

「うるさい! あんたら正気!? あんたたちが今何しているのかわかってんの!?」

「えっと……炒め物?」

「ああ、そうだ。雑貨屋から買った調理器具に火つけ道具で薬屋から買った薬と薬草を炒めてるんだけど問題ないだろ」

「何言ってんのよ! その炒めてるものが問題よ!」


 ちなみに俺も千代もラネットもみんなマスクを着けている。

 それはと言うと……


「あんたたちが炒めているそれ、普通に使えば薬だけど加熱すれば毒になるのよ!」


 そう、ここ風精族シルフィは平原と森ばっかりの国である故に植物の種類が豊富だそうだ。

 オーリエ村の薬屋も種類が豊富で、俺達の世界の物とは全く違うのもが多かった。

 でもって……


「いい! その薬は普通に服用すればいいものだけど、高温に加熱することによって有毒なガスを発生させるのよ! わかる!?」

「ああわかるよ。ついでにそのガスは自然環境に悪影響を及ぼさず、あくまで生物には効くってだけの物だろ」


 そこはちゃんと確認しました。

 それに症状は痺れ、吐き気の軽い症状で後遺症は残らないし。


「そうだけど……いったいそれでどうするつもりよ」

「なに、あとはこの液体を炒め物に掛ければ……」

「ちょ……!?」


 ものすごい大きく蒸発音は発し、

 すごい勢いで有毒ガスの煙が上がりました。


「よし! これですごい炒め物の出来上がり~」

「……もしかしてあんた。この煙を火蛇族サラマンドラに……」

「ああ、使うつもりだ」

「どうやって!? 煙は上に上がるだけよ!」

「だからこそ、お前の力を借りる」

「え、それって……!?」


 ラネットは気が付いたようだ。


「ああそうだ。ここは平原だが幸い丘とかで地形的にも有利な所だ。もちろんラネットがそれをすることができるってならね」

「……できる。できるわよ! でも、こんなの成功するの!?」

「そこはお前しだいってことだ。まあ仮に失敗しても俺達が全力でフォローするが、それも大事なことには違いない。だからな、ラネット」

「な、なによ…」

「お前の事を頼りにしてる」

「え……! わ、わかったわ。頑張ってみるわ……!」


 そろそろ近づいてくるな。


「そろそろだ。準備にかかれ」

「わかった」

「わかったわ」


 よし、そんじゃあ行くか。



      3



 な、なんだこの煙は!?

 急に強い風が吹き、煙がこちらに流れてやがる。

 初めは村の者が気づいて、煙幕でも使ったのかと思った。

 ならばそのまま突っ切ればいいはずだが……


「ぐあ……! なんだこれは……!?」

「し、痺れるぅ……!」

「ぐふっ。気持ち悪い……」


 ただの煙幕じゃない。毒か!?

 ちっ! しかも向かい風のせいで広範囲に広がっていやがる。


『あ、あー! あー! テステス! ……よし、使えるな』


 なんだ? 急に大きな声が向こうから……


火蛇族サラマンドラのお前たちに告げる。風精族シルフィを襲おうとしているようだが無駄なことだ。もうすでにお前らが来ることなど分かっている。今、村では里から来た沢山の兵士たちが待ち構えている。このまま血みどろの争いをしたくないのならここから回れ右して帰るがいい!』


 くっ……! 向こうから声が聞こえるが、煙のせいで見えない……!


「……この声は。なんであいつが……!?」


 この人間、何時の間にマスクを……!

 ……まあいい。誰かは知らぬが所詮ははったりだ。

 兵士たちは……ほとんど使えなくなっているが、問題ない。


「断る! この煙は貴様たちの仕業か! ならば今すぐやめておとなしく降伏しろ! そうすれば命だけは助けてやろう!」


 命だけ(・・・)、な……


『……はあ、しゃーねーな……それならこちらにも考えがある。今から怪我……かな? したくないものはここから立ち去るといい!』


 なんだと? いったい何をするつもりだ?

 この精鋭共相手に怪我をさせるなど容易ではない。


「あら」

「ん? どうした人間」

「来るわ」


 なに?


「いったい何が来ると……」


 …………ん! 向かうから小型の何か影が……


「……!? なんだ!?」


 何かがこっちに向かって来ている!?

 あれは……


 ……爆発した!?


「ぐおっ! これは……!」


 爆弾だと……!?

 だが、それにしてはあまり強そうではないが……


「ぎゃああああああああ!!!」

「!?」


 なんだ!?


「ぐああああああっ! なんだこれは!?」

「ああ、目がぁ、目がああああああぁぁぁぁぁ!」

「涙が……止まりませぇん!」


 違う……こいつはただの爆弾じゃない!

 周りの兵士達が涙を流し、苦しそうにしている。

 乗鰐用じょうがくようの鰐は暴れ出している。

 なんだこれは……!?

 

 しかも一つだけじゃない!


「ぐあ……っ!」


 あちこちで同じように爆発している!


「ぎゃあっ!?」


 兵士どもが……!


「うあああああ!?」


 俺は平気だが、周りが使い物にならなくなっていく……!

 くそっ! どうやらこの爆弾も同じく毒を出すのか……ならば。


「お前等、前へ進め! こんな毒など突っ切ればいい! 急いで前進するのだ!」


 このような毒、障害にならぬわ!


「じ……じがじ、じょうぐん……」

「あぁ? なんだお前は?」


 確かこいつは蛇人サーペンターのくせに俺の部隊へ入った若造だったな。


「自分だぢはじょうじぎ、かなりづらいじょうだいでありまず。ごのままだどいぐら風精族シルフィの者であれど里の兵士が本当いるのなら……」

「貴様……! そこになおれ!」

「じょ……じょうぐん……なにを……!?」


 お前のような弱卒は俺の隊に要らない!

 斬る!


「ぎゃああああああ!?」

「しょ、将軍!? 何をなさるのですか!?」

「貴様……! それでも俺の隊の兵士か!」 

「しょう……ぐん…………」


 ふん……死んだか。


「「「ひいぃ…………!!」」」


 不愉快な……!

 所詮は下等な蛇人サーペンターが……!


「たかだか兵士の一人が情けない顔で俺に楯突いてんじゃねえ! ここで後退するのなら俺が斬る! 貴様たちは黙って俺の命令を聞けばいいんだ! 解ったらさっさと進め!」

「「「……了解」」」


 ふん。誰だか知らぬが小癪なことを……

 この程度の毒で怯む俺達じゃない!


「酷いことをするわね」

「あぁ? 貴様も同じ目に遭いたいか?」

「それは嫌ね♥」

「ならば黙っていろ」


 腹立たしい……!


「貴様は大人しくしていろ。この先の奴は俺が殺ってやる」

「さっきと言ってることが違うわよ♥」

「ふん! やかましいわ」


 誰だか知らぬが向こうにいるものよ、覚悟しろ!



       4



 大軍における対策。


 まずは炒め物の煙をラネットの精霊術で風を起こして向こうへと飛ばしてもらった結果、まあ煙でよく見えないが進行速度が緩んだってことはうまくいったってことでしょう。

 その後、千代から借りた拡声器メガホンでハッタリをかまし、撤退を勧めたのだが……


『断る! この煙は貴様たちの仕業か! ならば今すぐやめるのだ! おとなしく降伏しろ! そうすれば命だけは助けてやろう!』


 とのこと、聞いてくれないようだ。

 ハッタリが通じなかった以上、実力行使に出ないといけなくなってしまったな。

 しかし、まあなんというか……


「すごい効き目ね……催涙弾、だっけ?」

「ああそうだ。戦わずして相手を鎮圧する。結構便利な物だ……」


 しかし、蜥蜴人間にまで通用するとは……近代兵器、恐るべし。


「零ちゃん。もう投げなくていい?」

「ああ、もう投げなくていい」


 そしてそれを大量に所持する千代もまた、恐るべし。


「さて……これで大人しく引き返してくれるといいんだが……」


 そう思い、双眼鏡で向こうを見てみると……


「……なに!?」

「どうしたの、零ちゃん」

「……嘘だろ……!?」


 効果は抜群だった。

 ほとんどは顔がすごいことになっているし動きも遅くなっているし走る鰐は使えなくなっている。

 しかし、誰一人足を止めずにこちらへと向かってきている!


「なんで止まってくれないんだ…………!」

「…………恐らく、カルリトロス将軍の仕業ね……!」

「何?」


 ラネットが冷静に分析をした。


「どういうことだ、それは……」

「カルリトロス将軍は、たしか自分の部下にも容赦をしない奴だったはずよ!」

「……ってことは……!」


 あいつ……自分とそりが合わない者には即クビって言うタイプか!

 上司には欲しくないやつだな。


「ちっ……どうする……!」


 千代が持っているであろう“あれ”を使うか? いいやだめだ。あれは殺傷力が強すぎる。下手したら大けがじゃ済まなくなる。

 こうなったら……


「零ちゃん?」


 やるしか……ないか……!


「ラネット、千代。どうか聞いてほしい。俺はある作戦をする」

「れ、零ちゃん?」

「なにをするってのよ」


 俺はその作戦の内容を二人に話した。


「……当初の予定通り、俺は大将と戦う」

「……! 零ちゃん! それは……!」

「あんた……本気で言ってるの?」

「ああ、本気だ」


 今回は予想外が多すぎた。


 大軍が来るのが早すぎたこと。

 指揮官が将軍だというあまりにも強そうな存在だという事。

 兵士たちを鎮圧したつもりがまだ立ち向かっていたこと。

 それが少人数ならまだいいがほぼ全員立ち向かったって事。


 油断はしていない。しかし予想外が多すぎた。

 結局俺は考えが浅かったってことか……

 ならばできることは……!


「だったら……私たちもやるわ!」

「ラネット……駄目だ」

「どうして!?」

「ラネットと千代は別にやってほしいことがある」

「え?」

「それって……」

「それはな……」


 ラネットと千代。二人には二人の役目がある。

 その内容を提案すると……


「零ちゃん。それが私たちの役目?」

「ああ、そうだ」

「……たしかに、私の精霊術なら可能よ。それは有効かもしれない。でも駄目よ!」

「なぜだ!」

「何でよりにもよってあんたがそんな役をしなくちゃいけないの!? もっと他に……」

「他がないから言ってるんだよ!」

「!?」


 いけないいけない。冷静にならないと……


「俺達の目的はあいつらを倒すことじゃない。後ろにある村を護るためなんだ。たとえ大軍に勝てても村を護れなくちゃ意味がないんだ」

「零ちゃん……」

「あの将軍とやら実力は解らないが、三人で挑んで敗けるなんてことがあってみろ。それこそ最悪のシナリオが起こっちまうだろ。そんな部の悪い賭けをするよりはましなことをするしかないんだ」


 ……ったく。今回は俺のミスだったな。

 俺も、まだまだだな。

 所長だったら……こんなミスはしないってのに……


「でも……そんなの……!」

「ラネットさん、待って」


 千代が憤るラネットを宥めた。


「クロチヨ。あんたなにを……」

「零ちゃん。確認したいことがあるの」

「なんだ?」

「今回の作戦は私とラネットさんが重要で、それが終わり次第だから……」

「ああそうだ。なにも俺は無理にする必要はないってことだ」

「……零ちゃん。一つだけ約束して」

「なんだ」

「……無理しないで、お願い」

「ちょっとクロチヨ!?」

「……わかった」

「ハクレイ!?」

「時間がない! 俺は行くぞ!」


 俺は作戦を実行するため、将軍の元へと向かったのだった。

白零の作戦とは……

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